【小説】真っ黒な落書き

棚にはトロフィーが並んでいた。 「すごいね、こんなに賞を取ってきたなんて」 「うん。だって皆に喜んでもらえるものを創りたくて必死でやってきたのだもの。人に喜んでもらうことが好きなの。賞だけじゃない。誰か一人のために創ったことも何度かあった。…

【小説】目覚めの怪談

目が覚めると、今がいつかわからないことがある。何時だ、朝か夜か、何曜日か。疲れて長く眠ったときや、変な時間に昼寝を始めてしまったときになる。 今もそうだった。いつだろう。時計を見る。止まっていた。そこらじゅうにほこりがたまって、部屋全体に薄…

【小説】実験協力者募集

xxxx年xx月xx日 朝刊 《親殺しのパラドクス、実験協力者募集》 皆様ご存知の通りタイムマシンが開発されてから、かつてのSF的議論を解決すべく様々な実験が始まりました。今回の実験もその一つです。 過去に行って結婚前の親を殺せば自分は消える、でも自分…

【小説】過去の集合が私達を救いに来る話

時計を見ると授業は残り三分の一程度だった。なんの授業だったかは覚えていない。ここ一年ほどいつも頭がぼんやりしている。ずっと度のあわない眼鏡をかけたように世界は見える。回らない頭に授業の内容を詰め込もうとする。うまくいくはずもない。なんの授…

【小説】人間にありがちな会話

A「ピーマンは苦いし種を取って調理するのが面倒です。だから私はピーマンが大好きです!」 B「…?えっと、じゃあピーマンはよく食べるんですかね…?」 A「あ、あの、あなたが偏食家だからといって必ず病気になると決まったわけではないし…落ち込まないでく…

【やり方メモ】月経ディスク挑戦譚

月経カップの進化版ぽい月経ディスクというのを初めて試した。慣れていないときに気をつけるべきかなと思ったことをメモする。 当方はタンポンとソフィシンクロフィットは使っていて月経カップの使用経験はない。 この記事を参考にしようと思ってくださる方…

【考察】コミュニケーションの齟齬と自力で心を沈めること

コミュニケーションに齟齬があったとき、ひどく動揺する。今もその動揺の中にあり、手や体が震え心臓もバクバクいっており、キーボードが打ちにくい。(特に左手が震える。どうでもよい情報。)(このように文章を書くという理性を使う行動をしていても治まらな…

【考察】音楽とかにおけるまだ気付いてない要素への指摘

昔、合唱団の練習中に「ソプラノ(私の属するパート)、音が微妙に低い」と指揮者に言われた。今の私はその違いに気付けるかも知れないが、当時の私には到底気付けず「合ってるじゃん!そんな指摘は間違っている!」と心の中で思い、虫の居所が悪かったのか無…

【小説】地中の生き物

田んぼのように四角く、雑に土が掘られていた。私たちはそこに並べて横たえられた。もう誰にも自力で起き上がる力はなかった。上から土がかけられた。私たちはかろうじて虚ろな目で彼らをにらむだけだった。たまに何人かが弱い声でうめいていた。私たちは完…

私はその花の最後の葉だった。私が去ると花は枯れた。 私は風車の羽の一枚だった。私が去ると風車は壊れた。 私は組織の重要なポストに付いていた。私が去ると組織は解散した。 私は家族を養っていた。私が去ると家族は家族をやめた。 私は好きなところへ行…

【小説】生存本能

私にかけられた呪いの名は生存本能といった。生まれながらに持っていた欠陥。 私は死ぬのが怖かった。面倒でも生き続けるために自分の世話をし、戦いに出ることも避けた。どんなに退屈でそこから逃れたくても消えてしまうのは怖かった。これでは何のために生…

【小説】姉妹

年の離れた姉がいた。姉と私は物心ついた頃から二人暮らしだった。 姉は私に優しくはなかった。 友達が来てテレビゲームをするのだと言って、姉はよく私をクローゼットに閉じ込めた。 荷物の間で膝を抱え、暗いのを意識しないようにしながら時間が過ぎるのを…

「死」

待つのは慣れている 電車、バス、順番待ち 焦らず待てばすぐに来る

怖い夢

洗面所に夫がいた。キッチンを覗くとそこにも夫がいた。私が仰天して慌てると二人ともにたにた笑った。家のあちこちにたくさんの夫がいた。こんな事態なのに夫達は平然としている。私がこんなのおかしいと夫のうちの一人に泣きついても皆にたにたしている。 …

【小説】怒号

戦争が始まったので隣の部屋に避難する。頭にクッションを乗せ、机の下に入る。 隣からは爆音と怒号が響いてくる。 ごぼがががぐがばばばぐがるら。ぐがががらぎりりがぐが。 は?この○○が!□□□!△△! 声は一人分のものだけ聞こえてくるように思える。だんだ…

「セケン」はフィールドでなく村に現れる敵である。始まりの村からもう居る。出会えば逃げるコマンドは出ない。道行く人や店の人に話しかけるとたまにそれが「セケン」であるという形で現れる。「いつまでも冒険者などしていないでまともな職に就きなさい」…

最近の若い者は下手に優秀で苦労もしていないし弱い者の痛みがわからない。仕事を処理する速さも量も凄いし何日働いても疲れないしチェーンソーでも弾丸でも傷一つ付かない。そして私が同じように出来ないのを不思議がっているのだ。

【俳句】2019年11月28日~2021年末

幸せは取りに戻れず鳥帰る生活の窓破られて鳥帰る梅雨菌胞子キラキラ町は揺れ鶯の声が輪郭持ち小雨末代の子の走り去る梅雨の街蝿生まる又人生まる悲しさよ涼風や死際すべて安らかなれ秋灯ゲームの爆発音聞こえ春愁や水面の陰として揺れる陽炎とそれで思った…

【短歌】2019年11月28日~2021年末

童顔の女困った顔ぼくは泣き顔土に擦りつけてる洗濯の皺のばすよう手を叩きあまねく人を消してしまおう捨てないで見放さないでお母さま僕は彼女の靴にすがったあかねさすあの日の君はもういない同じ顔した抜殻がある朽果てた首吊り死体その部屋に付けっぱな…

【小説】いつも人は一日で消える

恋愛成就で有名なまじない師の所へ行った。同じ職場の片想いの人の写真を見せると、まじない師は言った。 「この男性が貴女を好きになるようにまじないをかけました。ついでにデートの約束も取り付けました。今週の土曜日の13時に駅前の公園へ行きなさい」 …

【小説】脱出

敵が現れた夜、私と彼はいつものようにヒーロースーツに身を包み、戦っていた。やはり私達は最高のコンビだった。一人目の敵を見事な連携プレーで倒した後、彼は振り返り私に微笑みかけた。彼の頭を後ろから二人目の敵が狙っていた。私は素早く踏み込み、パ…

【小説】支配

夜、私達はヒーローをしている。敵が現れれば私と彼は抜群の気があった連携で敵を圧倒する。仕事が終われば私達はハイタッチをして喜びあい労いあい、彼は私をハグしてキスをしてくれる。 昼、私達はスクールに通っている。昨日はお疲れ様、ありがとう、あの…

【小説】忘れる

R星に赴いていた我が研究所の調査員が帰って来なくなった。彼女を探しに人をやった。彼女が宿泊していたホテルにあった多くの忘れ物の中に病院の領収書があった。この星には、他の星から来た者がこの星の者と同じ感覚で暮らせるように脳の記憶に関する部分…

【小説】憶えている

調査に入ったその星の住民は思い出というものを持たなかった。目の前で続いているタスクのことはそれが終わるまで覚えている。しかし終わると完全に忘れてしまう。仕事でも生活でも対人関係でも何に関してもそうだった。我々には奇妙に思えるが、彼らにはそ…

【小説】ヒトに恋したマモノ

おいで、とその人は言った。それに逆らうことはできなかった。どうせ後で悲しむ。度重なる過去の経験は警告していた。でもそれらも役割を果たさなかった。求めてやまなかった。もう遅かった。その人の元に走った。体が壊れるくらいにはやく。その人はいなか…

【小説】山を下りたマモノ

山を下りて街に出た。通り沿いにある台の上に座る。目の前を人々が行き交う。 私は待った。ここを通る人の誰かが私に気付き、私に話しかけてくれるのを。もしかしたら、抱き締めてくれるのを。連れて帰ってくれるのを。 長い時間が過ぎたように感じられた。…

【小説】VS説教おじさん

風俗嬢が仕事に行こうとすると、説教おじさんが現れた。説教おじさんは説教を始めた。 風俗嬢は抵抗した。 「家に帰れって言われたって実家じゃお金も食べ物ももらえないんですよ、出勤させてください」 「まともな仕事をしろですか?二百社受けましたが百社…

【小説】まものの子の独白

狩りができるひとたちはみんな本当にすごいと思う。尊敬する。狩りは難しいし大変だ。気持ちも体も大変疲れる。ぼくは狩りに成功したことがないから本当には分からないけれど、しようとしただけでもくたくたで動けなくなってしまうからきっとそうだと思う。…

【小説】まものの子の話

昔あるところにまものの親子がいました。 まものの子は狩りが上手くできませんでした。どんなに息を潜めて近づいてもすぐに獲物に気付かれてしまうし、追いかけっこになるとたちまち距離を離されてしまいます。まものの子は小さな頃から一度も獲物を捕まえる…

【考察】幸福の既得権益の問題

反出生主義を初めて知った頃の記事↓で車社会との対比を考えた。 https://sonnakibun.hatenablog.com/entry/2017/10/06/162503 車の類が当たり前にそこらを走る社会では事故による死傷者が常に存在する。それを理由に車社会をやめるべきか?苦しみや不幸な人…