【小説】千手さまと若き日のおばあちゃん

この世界は千手さまがお創りになったのだと、小さい頃おばあちゃんはいつも話してくれた。

でも千手さまはただ世界を創っただけではないことを僕は知っている。僕が大きくなってから、おばあちゃんはその話を一度だけ聞かせてくれた。

おばあちゃんは捨て子だった。遠すぎて夢か本当かわからないけれど、人生の最初にこんな記憶があるという。寒くてお腹がすいて、自分をどうすればよいかわからなくてとてもさびしかったとき、大きな手が一本、おばあちゃんを包んで頭をなでてくれた。おばあちゃんは初めて深く深く安心して、その手の暖かさだけを感じた。

それから手はいつもおばあちゃんのそばにいてくれた。人の中にいてもさびしいときや、他の人ができることができなくて落ち込んだとき、手は優しくおばあちゃんをなでてくれた。それだけで、生きていてよいのだと思ったと、おばあちゃんは言った。

不安になっても、悲しいことがあっても、すぐに安心できた。手がいつもおばあちゃんを包んでくれた。

 

おばあちゃんが病院で息を引き取る少し前に、僕はおばあちゃんに尋ねた。

今も手は、そばにいてくれるの?

おばあちゃんは、どこまでも満たされた顔で、笑った。