【小説】戦死者

戦争から帰ってきたのは夫じゃなかった。顔も声も笑い方も、独り言を言う癖も、すぐに不機嫌になってグズるのも変わらない。でも、別人。全くの。夫は死んじゃった。

戦争中のその人は叫んで手を振り回していた。見えない誰かに恐ろしい顔で凄んで罵倒して叩いていた。

戦争は終わったけど夫は帰ってこなかった。もういない。二度と会うことはない。私をこの世界に繋ぎとめていた人は死んじゃった。

私は何食わぬ顔で夫に似たその人と生活している。未練のないこの世界で。戦争の話だけはせずに。