2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

【小説】幸運の所有権

「転生するにあたり、あなたには女神の授けし幸運として、勇者級に健康で丈夫な肉体を与えましょう。さあ、行くのです!」 そう言って送り出され、俺は流行りの異世界転生を遂げた。 女神のくれた体は本当に丈夫だった。ここで生まれ直してからはいくら食べ…

【小説】温かかっただけの人の思い出

私はその人の名前も年齢も性別も、何も知らなかった。ただその人の温かさだけがわかった。それで十分だ。 私はその日も山に登っていた。日々の疲れやストレスを感じたら、登りたい衝動から逃れられなくなる。整骨院の先生に「素人でこんな足は初めて見た」と…

【小説】確率と身体と精神と恋の話

恋が成就したことがなかった。当然のことだと思っていた。なぜなら私がクラスの一人の男子を好きになったとして、もしその人がこのクラスの誰かを好きであると仮定すると私を好きである確率は、クラスの女子は十五人なのでたったの十五分の一だ。クラスの外…

【小説】千年待つ

あの人が行ってしまってから千年。私は待った。あの人が帰ってくるのを。 辛かったのは最初の半年だった。あの人は突然いなくなった。最初はすぐ連絡が来るだろうと思った。来なかった。日を追うごとに心は乱れた。いつしか何も感じなくなった。考えなくなっ…

【小説】ゾンビさんへ

零日目。 彼にメッセージを送った。彼とはほぼ毎日やり取りしている。数日空くこともあるけれど、そんなことで気にしたりはしない。彼の愛を信じているから。 一日目。 彼の返信を待っている。今日は返信がなかった。忙しいのだろう。あるいは眠たいのかもし…

【連想散文】歯車

気分が相当に鬱いでいるときは芥川の「歯車」を読むとなかなか癒される。 うちのアパートの部屋は狭く、小さい店舗や事務所に使われている他は、知る限り独り暮らしばかりである。そこにうちは夫と二人で住んでいる。 私も夫もわりかしネットで物を買うので…

【小説】皿の絵

皿の絵になりたかった。 その時はまだ周りで死のうとした人がいなかったから、死にたいという発想は出てこなかった。 絶え間ない煮えるような痛みの中で走り続けていた。昼食に出てきた中華皿の縁にふと目が行った。昔の中国の子供が独楽で遊ぶ絵が書かれて…