2020-01-01から1年間の記事一覧

【考察】幸福の既得権益の問題

反出生主義を初めて知った頃の記事↓で車社会との対比を考えた。 https://sonnakibun.hatenablog.com/entry/2017/10/06/162503 車の類が当たり前にそこらを走る社会では事故による死傷者が常に存在する。それを理由に車社会をやめるべきか?苦しみや不幸な人…

【考察】「あの子の革」

「あの子の革」という商品がTwitter上で話題になった。出荷された牛の革の断片をチャームにして、その牛のプロフィールというか思い出の記録を付けて売っている商品だ。 https://twitter.com/grotesque556/status/1286912443499737089?s=19 エシカルビーガン…

【小説】夢一夜

目の高さに、連なる家々の屋根が見える。 街の一角の屋根の上、少し陰になった所に私たちはこっそりと陣取り、キャンプをして暮らしていた。 あるとき向こうに見える屋根を走ってくるものが見えた。猫か。いや、猫なのだが大きすぎる。高さが私の三倍はある…

【小説】マモノの寂しさ

ヒトの寂しさが沈む夕日だとすれば、マモノの寂しさは荒れ狂う暴風雨だ。傘が看板が植木鉢が宙を舞い、雨が頬を全身を裂かんばかりに右から左から殴り続ける。目を開けることも立っていることもできない。マモノは闇の中で体中から咆哮をあげる。地が轟く。…

【小説】もう誰も苦しまない

「もう誰も苦しめさせない。お前は私が倒す!」 主人公は言った。 「貴様一人では刺し違えても我は倒せぬ。全員でかかってきたら少しは可能性は上がるかもしれないがな。がははは」 悪者は答えた。 すぐさま人類全員が集結した。彼らは悪者に全力で向かって…

【小説】あたし、セミとり、すきやねん

みどりのはっぱをいっぱいつけた木立のかげをぬけ、団地の階段を、とも子ちゃんは汗をかきながらかけあがります。「おかあさん、ただいまー」「おかえり、とも子。きょうのテストどうやった?」 とも子ちゃんがテストをとりだして見せると、お母さんはまゆを…

【考察】観測者(2006・7・30頃の物の再掲)

●我思うゆえに我あり<1> 私の考えたことの筋をたどるために、まず、 「私がうろ覚えで適当に認識していたところの、デカルトの思考」 について語らねばならない。 実際のデカルトについて知りたい人は、彼の著書でも読んでください。 ではまいります。 デ…

【詩】2005年頃

〇十六 その灯はあまりにも小さくついていることさえ忘れてしまうときもあるでも決して消えることはないそれでいいのかもしれないそれがいいのかもしれない 何もない日々を毎日もしかしてもしかしてと思いながらすごすそれが幸せなのかもしれない 〇-青い蝶-…

【小説】闇夜の僕

気が付けば、真っ暗な闇の中に浮かんでいた。 その狭い空間は僕にまったく無関心で、何を与えようともしなかった。苦しみも、安らぎも。僕はただ恐ろしくて泣きつづけた。いつまでも。 あのウィルスに感染してから僕は、なんというか、ものごころついた。た…

【短歌】2005年頃

散り散りに散って今にも消えそうな世界で命を乞う紙の鳥 滑稽なまでににじんだ血の色に貴重な時間ついやしている 憂き人の屈託のない笑顔見て幸せになる悪気なくとも 薄闇の向こうにいつか見た君にまた叫んではとどかない歌 ななめ上君が笑っていたのならき…

【小説】部屋

ここはどこだろう。 目を覚ましたら薄暗く、床が少し冷たく感じられた。まわりはコンクリートのようだったけれど、人が住むための部屋のような気がした。近くに人の気配は無かった。窓は無かったけれど、空気はさほど汚くない。まだ完全に覚醒していない頭は…

【小説】権助の話

権助は悪人だ。極悪人だ。これまでいろいろな悪事をはたらいてきた。盗みも放火も人殺しもした。財産をなくした人も家をなくした人も大事な人をなくした人も悲しんだ。 権助は悪人だ。だけどあるとき権助は、急に悲しくなってきた。今までやってきたことを、…

【小説】物語

僕には書くことしかできなくてうまく書くこともできなくてうまく伝えることもできなくてこうしてありのままを書いていることしか…でも、僕は、僕は君が 1991年、春、マンションのベランダで洗濯物を干す。 どんな世紀の大チャンスも、今の僕には無用の長…

【小説】穴

僕は喪失を知らなかった。そのときまでは。はじめから何も持っていなかったから、なくすものなんて何も無かった。何も得たいと思わなかった。探すことさえしなかった。何かが有るなんて思わなかったから。なのに天はあるとき気まぐれに、僕に意味を与えた。…

【小説】赤

その日の夕食の赤い魚に、僕はとても嫌な感じを覚えた。自分は生前魚だったんだと主張するように、表面が細かくぼこぼこしている。全体と比べて小さめの尾がひときわ赤くて、皿にへばりついている。もともと魚はあまり好きではなかったが、僕はそのとれにく…

【俳句】2009年~2011年

水に溶け消え入る砂糖春愁誰からも好かれず好かず蝿生まる春愁を見知らぬ街で死ぬ話同じ色のドロップ二つ遠蛙立春に次会うと決め別れけりぶらんこの子の永すぎる未来かな春灯し頼みし胸の薄さかな彼岸餅大人ばかりの家となる懐かしき肉屋はなくて春なかば筍…

【小説】幸運の所有権

「転生するにあたり、あなたには女神の授けし幸運として、勇者級に健康で丈夫な肉体を与えましょう。さあ、行くのです!」 そう言って送り出され、俺は流行りの異世界転生を遂げた。 女神のくれた体は本当に丈夫だった。ここで生まれ直してからはいくら食べ…

【小説】温かかっただけの人の思い出

私はその人の名前も年齢も性別も、何も知らなかった。ただその人の温かさだけがわかった。それで十分だ。 私はその日も山に登っていた。日々の疲れやストレスを感じたら、登りたい衝動から逃れられなくなる。整骨院の先生に「素人でこんな足は初めて見た」と…

【小説】確率と身体と精神と恋の話

恋が成就したことがなかった。当然のことだと思っていた。なぜなら私がクラスの一人の男子を好きになったとして、もしその人がこのクラスの誰かを好きであると仮定すると私を好きである確率は、クラスの女子は十五人なのでたったの十五分の一だ。クラスの外…

【小説】千年待つ

あの人が行ってしまってから千年。私は待った。あの人が帰ってくるのを。 辛かったのは最初の半年だった。あの人は突然いなくなった。最初はすぐ連絡が来るだろうと思った。来なかった。日を追うごとに心は乱れた。いつしか何も感じなくなった。考えなくなっ…

【小説】ゾンビさんへ

零日目。 彼にメッセージを送った。彼とはほぼ毎日やり取りしている。数日空くこともあるけれど、そんなことで気にしたりはしない。彼の愛を信じているから。 一日目。 彼の返信を待っている。今日は返信がなかった。忙しいのだろう。あるいは眠たいのかもし…

【連想散文】歯車

気分が相当に鬱いでいるときは芥川の「歯車」を読むとなかなか癒される。 うちのアパートの部屋は狭く、小さい店舗や事務所に使われている他は、知る限り独り暮らしばかりである。そこにうちは夫と二人で住んでいる。 私も夫もわりかしネットで物を買うので…

【小説】皿の絵

皿の絵になりたかった。 その時はまだ周りで死のうとした人がいなかったから、死にたいという発想は出てこなかった。 絶え間ない煮えるような痛みの中で走り続けていた。昼食に出てきた中華皿の縁にふと目が行った。昔の中国の子供が独楽で遊ぶ絵が書かれて…

【小説】あるゾンビウィルスの話

2020年、地球。 あるゾンビウィルスが密かに蔓延していた。 僕は父から感染した。噛まれたのではない。このゾンビウィルスが腐らせるのは身体全体ではなく主に心である。歯などの身体表面は、生きた人間とさほど変わらない。 近しく過ごした者の、心から…

【連想散文】四畳半神話大系

アニメ「四畳半神話大系」を見た。 私は高3の時に精神を病んだ。 なんとか大学に入ったが(あの状態で入れたのが不思議だ。)ただ文を読んで理解するのもかなり時間を要する状態で、一~二週間で大学に行かなくなった。 共同アパートの狭い部屋。まだ揃えられ…