【小説】ゾンビさんへ

零日目。

彼にメッセージを送った。彼とはほぼ毎日やり取りしている。数日空くこともあるけれど、そんなことで気にしたりはしない。彼の愛を信じているから。

 

一日目。

彼の返信を待っている。今日は返信がなかった。忙しいのだろう。あるいは眠たいのかもしれない。月曜日だし。よくあることなので気にしない。

 

二日目。

今日も返信がなかった。しかし全く焦ったりしない。これくらいありえることだし、彼は決して私のために生きているわけではないのだから、当然のことだ。明日ごろには何食わぬ顔で返事がくるだろう。そしてつまらない理由にお互い笑うのだ。

 

三日目。

返信は来ない。そろそろこのことについて考えるのをやめなければならない。別にそのせいではないのだが、何をしていても気が散ってしかたがない。忘れよう。返信が来るまで返信のことは忘れていよう。

 

四日目。

返信はもう来ないだろう。諦めた。もう待ってなどいない。未練たらしく待ったりしない。彼からの返信はもう来ない。諦めればもう待たなくていい。考えなくていい。もう苦しくない。なんて良いことなんだ。

 

五日目。

私は彼を弔う気持ちになっている。懐かしい、私を愛してくれた彼。もし何か事情があってしばらく返信出来ないのなら、彼ならその旨を伝えてくれるだろう。一言も送れない理由があった。事故、病気。色々考えられる。しかし彼からのメッセージは二度と来ないことは決まっているのだから、死んだと考えるのが最も自然で合理的な推測だろう。亡くなってしまったその人と過ごせた過去を有難く思う。遠い過去は心の奥深くのアルバムに眠る。

 

六日目。

彼の人の名のついたメッセージが来た。長年の習慣でその音を聞くと私の心は踊るようにできている。しかし文面を開いてすぐにわかった。これはゾンビからのメッセージだ。もとは彼だったゾンビ。その文面に私は彼を感じなかった。なんの変哲もない彼らしい文だった。しかし私はもう嬉しくならなかった。だから、それがゾンビからだとわかった。彼はもう死んでいるのだ。ゾンビだと気付かないふりをして、メッセージを返す。嬉しい、と。空っぽの心で。私はいつかこのゾンビを愛せるだろうか。彼を愛していたように。