2017-01-01から1年間の記事一覧

【小説】サークルペアダンス

「おかえりなさい」「こんにちは。よろしくお願いします」男が迎え、女が入ってきた。「あ、あなたは鈴木さんといるところを見かけたことがあります」「ああ、はす向かいの。あそこにいたのは先月だったかしら」「良い方だったでしょ」「ええ」二人は夕食を…

【小説】憎らしい夢

思い出すとひどく憎らしい気持ちになる夢がある。その夢の中で私はとても楽しい心持ちだった。夢のようだった。そして夢の中で私はそれを現実だと思っていた。目が覚めてからもしばらくはそう思っていた。楽しかったことを思い出す。しかしそれは幻である。…

【小説】有機生物解剖学入門

第××章 生殖器官 前章までは、有機生物が他の有機生物や気体を取り込んでエネルギーに変換するなど、有機生物の活動に必要な器官について見てきた。本章では、かつては必要だったが現在は使われていない器官について説明する。 ヒトをはじめとする有機生物は…

【小説】後のない祭り

この村には年に一度開かれるお祭りがあります。何でも好きな願い事を叶えてもらえるお祭りです。その年私は友達がほしいと願いました。私は独りぼっちだったのです。お祭りの火を囲んでいるとき、同じ年くらいの知らない女の子が話しかけてきました。話が合…

【思考】この視点3/役割か副産物か

前野隆司『脳はなぜ「心」を作ったのか』も、脳の処理における一つの役割(経験を物語として圧縮して保存しやすくする)を果たすものとして、この視点があるという話をしていて、方向性がとても興味深い。でもその役割として視点が適任であるとはいまいち思…

【思考】この視点2/身体と似たもの

前の記事『この視点1/準備』では「この身体-この視点」をサンプルとして、「身体-視点」を考えてみることにした。生物学的に見たら不要に思われる「視点」がなぜ存在するのか。 身体と似た機構について考えてみる。入力、処理、出力という一連の動きをす…

【思考】この視点1/準備

この身体-この視点-私 (※おまけ)各々の身体-(仮説)各々の視点 ●この身体この世界にある人間の身体の内、私が乗っているもの。脳を含めた科学的機構。電気信号、代謝、物質を取り込んでは排していくまとまり。統率された細胞たちの集まり。感覚器官から…

【思考】退屈

退屈や否退屈を取り巻く状況を分類する。 すべきこと(仕事や、約束してしまった遊びの計画等)がある-すべきことが熱中できる -すべきことが楽しい -楽しくないが集中を要するので退屈している余裕はない-すべきことが単調で楽しくなくて退屈(→それが…

【思考】退屈、ルーティン、いつもと違うこと

毎日の生活の中にルーティンを組み込むと、頭を使わないですむ。新しく考えながら何かをすることを回避できる。いつもの朝御飯を食べる為の動作が一定なら、いちいち頭を使わないですむ。朝御飯の内容がある程度固定されていたら、毎日これは健康に良いだろ…

【小説】人事異動の季節

仲の良いクラスメイトが遠くへ行ってしまったといって、下の子が落ち込んでいた。 異動の季節である。周りのメンバーは毎年のように変わっていく。この子はどうしてこれくらいのことで落ち込むのだろう。去年は隣のおばさんが異動になったし、一昨年はお祖父…

【小説】金星まんじゅう屋

君を好きではなくなった。君には何も悪いところはない。僕がただ心変わりしたのだ。本当にすまない。そう言って彼は出ていった。幸い私たちには子供はいなかった。女がいる様子でもなかった。 彼は金星まんじゅう屋の二代目だった。地球で金星ブームが起きた…

【小説】嫌なことを予期する

何が起きても悲しまないためにはあらゆる嫌なことを予期しておくことが有用である。(逆に良い方向への勝手な思い込みを注意深く排除すること。)この仮説にしたがって、私はあらゆることを予期しながら過ごしている。階段から落ちて骨折、入院し、楽しみにし…

【小説】カートを引く女

夜になると外の道から、カラカラ、カラカラ、音がする。侍女が言う。これは女がカートを引いている音だ。女はカートの中身を捨てる場所を探して、延々さまよっている。孤独な女だ。 なるほど、よくわかる。こういうことだろう。人と上手くやっていけないくせ…

【小説】ぶよぶよの悲しみ

シェルターの外には万年雨が降っている。触れると有害な物質を含んでいるので、私たちは普通、シェルターの外に出ることはない。隣の部屋の子が出ていったのは半年ほど前だったか。私たちはシェルターの生き残りの最後の二人だった。私はもうその子のこと、…

【小説】最後の退屈

一日のほとんどの時間を、編み物をして過ごします。目を数えていると、他のことを考えずにすむからです。退屈や憂鬱に沈んでしまいそうなときも、一目、二目、私の頭は数えることだけでいっぱいになります。シェルターの中には同じ作りの部屋が横にずらりと…

【小説】勇者と浮世の恋

今から魔王を倒しにいく。もう充分レベルも上げたので簡単に倒せるだろう。しかし私は思うのである。村の娘さんは私を好いてくれていた。しかし私には想い人がいるのでその娘さんの好意を拒否してしまった。私も苦しい恋をしたことはある。娘さんの苦しみは…

【小説】過疎の村

その過疎の村には、それでもまだ少し若者がいた。私が村に住みはじめると、嫁が来たと人々は喜んだ。私はやがて村の男の一人と一緒になった。私はその男を好いていた。しかし男は酔っぱらって崖から落ちて死んでしまった。私は悲しんだが、仕方がないのでま…

【思考】反出生主義について4

幸福を作る善度合より同量の(?)不幸を作る悪度合の方が大きい、という感覚は私にもある。 それはなぜなのだろうか。なぜそう感じるのだろう。 (前の3の記事での幸不幸対称の論はどこかに間違いがあるのだろうか?) この感覚を進化の過程で取得したと考えて…

【思考】反出生主義について3

2の補足。 餅については、喉に詰まって死ぬかもしれないから、今この餅を食べないべきか。と、個人の視点でも書ける。溺れるかもしれないから海に行くのはやめるべきか。事故に遭うかもしれないから家を出るのはやめるべきか。 それと、不幸を生じさせる悪…

【小説】彼方の掲示板より

きけん!!なめくじを飼わないで! なめくじ状のものを拾って飼うのはやめましょう。おとなしくて、あぶなくないように見えますが、きけんです。(むかしのせかいのなめくじとはちがいます。)なめくじの頭はにぶいですが、かまってくれる人のやさしさには敏…

【小説】思い出しファザーコンプレックス

ここに来たとき父は私より小さなアメーバ状のものになったので私にはもう父を見分けることはできない。太陽が地球を飲み込もうとするとき、人類はここへ移住した。ここは当時彼方(あちら)などと呼ばれていた。難しいことは良くわからないが、違う次元のよう…

【思考】反出生主義について2

これから生まれる人と今生きている人の間で、男女比や血液型の比率などが急に変わることはないだろうと思われるので、そういう意味でこれから生まれてくる人のことを予想できる。 そして、それよりは複雑な要因が絡んでくるが、これから生まれる人の幸不幸も…

【思考】反出生主義について

考えながら書いた順序のままなので話が蛇行していてすみません。 反出生主義という言葉を知った。 私は反出生主義者であろうか、と考える。まずもって私は他人の幸せを望んでいるだろうか。自分や身近な人の幸せは望んでいる。遠い人の幸せも望んでいるが身…

【小説】夜行バス

夜行バスの待ち時間にはストレッチをする。立ったままできるやり方で。横にいる人に邪魔にならないようにできるだけ真上真下に動きながら、しかし全身を伸ばす。他の人はだれもやっていない。これをやるだけで乗車後の快適度が随分違うと思うのだが。引っ越…

【思考】恋のやめ方8/明日振られる覚悟

明日死んでも後悔しないように生きる。そう思っている人はけっこういるのではないだろうか。毎日、今日で終わりと思って生きる。 それを色んなことに応用してみたらどうか。今手の中にあるもの、手に入りそうになっているもの、それらが明日ついえる。今日で…

【思考】恋のやめ方7/楽しかった思い出への対処

失った恋の楽しかったことが思い出されて苦しい。そんな場合の対処法を考える。 あなたが詐欺にあったと想像してみよう。騙されている最中の幻想は本物と変わらないものだっただろう。しかしそれが詐欺であったなら、気づけて良かった、目が覚めて良かったと…

【思考】恋のやめ方6/一桁違いの宝くじを悔しがらない

例えば、どうしても破れない金庫が目の前にあるとする。その中にだけ欲しいものがある。そして鍵は存在しない。すぐ近くに欲しいものはある、それだから手に入る可能性はあるはずだ。そう思うのは混乱である。距離だけで手に入る入らないは決まらない。 自分…

【思考】恋のやめ方5/期待

無益な期待をしてしまうときとそうでないときがある。その違いは何だろう。今ある幸運は必然などでは決してなく、いつ失ってもおかしくない。そう思えることもある。全てにそう思えないのはなぜか。既に得てしまって、あとは続くか失うかという場面では、い…

【思考】恋のやめ方4/恋と退屈とダイエット

何に価値を感じるかは自分でコントロールできない。何を今楽しいと感じるかも自分でコントロールできない。その点では恋と退屈は似ているかもしれない。 退屈なとき、今やろうと思えば簡単にできることや既にやっていることを楽しめないとき、口寂しくてお菓…

【思考】恋のやめ方3/手の中にあるもの、ないもの

手に入らないもの、入っていないものに目が向く現象全体を、もう皆、恋と呼んでいい気がする。お金がなくて買えないもの。もっと良い暮らし。好いてくれる人との時間でなくて、好きな人との時間。今出来ることや得意なことでなくて、才能がなくて手に入らな…