2018-01-01から1年間の記事一覧

【小説】マイクロバイオーム4~秘めたる戦い

腸内細菌たちのおかげで俺がひきこもりをやめ、外に出られるようになって結構たった。 あのころに比べれば、俺のメンタルもなかなか強くなったと思う。 先日、バイトの忘年会のとき上司にこう言われた。 「君、前ひきこもりだったんだって?部屋で壁としゃべ…

【小説】おばあちゃんと甦る千手さま

おばあちゃんが亡くなったあとの、病室の片付けは簡単なものだった。おばあちゃんはほとんど荷物を病室に持ってきていなかった。 ほぼ空の引き出しに、紙切れが一枚入っていた。自由の利かなくなった手で、できるだけ丁寧に畳んであるように見えた。開くと、…

【小説】神話 子生みのはじまり

昔々、まだ神様がこの地上を見守っていてくださった頃。 地上に生じる生き物は、一個体一個体、すべて神様が直接お造りになっていました。 その頃の地上はまだ平和そのもので、ただの一人も、ただ一つの苦痛も感じずに暮らすことができました。だから神様は…

【漫画】抑鬱状態になった大学生の話

【小説】逃亡生活の二人

星間戦争は静かに続いていた。敵は、この星の生命誕生に手を貸し観察を続けてきたN星雲のP星である。 P星の生物兵器、寄生虫Xが戦線に投入されてから、この星はさながらゾンビ映画の舞台のようになった。映画と違うのは、寄生されても見た目はほぼ変わらず、…

【小説】千手さまと若き日のおばあちゃん

この世界は千手さまがお創りになったのだと、小さい頃おばあちゃんはいつも話してくれた。 でも千手さまはただ世界を創っただけではないことを僕は知っている。僕が大きくなってから、おばあちゃんはその話を一度だけ聞かせてくれた。 おばあちゃんは捨て子…

【小説】辞世

では山田くん、ここを去るにあたって一言。 「皆様、これまでたいへんお世話になりました。おかげで私もそこそこ楽しくやって来られました。ありがとうございました」 山田くん、お疲れ様。あ、こらこらそこの君、泣くんじゃない。目出度いことじゃないか。 …

【短歌】2018年5月21日~8月28日

台風の宵には空へ行くために逆さ上がりの補助台が待つ どのくらい愛のこもった殴打なら一発で死に至れるだろう 逃げ出してしまいたい夜夏風邪で暑くて横の人は無口で ケータイが無かったころの地球では迷子がちゃんと迷子であった 馴れ合いで生きているだけ…

【短歌】2018年4月17日~5月21日

返事のない手紙を書いたペンの為にお墓を建てたみんな不幸だ 暗がりにトイレにたちてスリッパの左右違えて寝れなくなりぬ 心臓が速く打ったらきっと早く死期が来るから酒を飲んでる うっかりと床に落としてほどけきる糸巻の如早く死にたい 消えたいなら薬か…

【小説】三原則の弊害

人型機械って高くて重いけど、簡単に盗む方々考えたw 自分を人質に取って、ついてこいって言えばいんじゃね?

【連想散文】メルヘン翁再考

さくらももこさんが亡くなった。 まるちゃんもコジコジも一枚絵もエッセイも好きだった。 (タバコをやめない理屈が印象に残っていたので肺癌かなと思ったけど違うんですね) 家族で読んで腹がよじれるほど笑ったエッセイの一つに『もものかんづめ』収録の「メ…

【小説】妻についての短い話

冷房の効いた中華屋で昼食を食べているときにそれはふらふらと店内に入ってきた。若い店員がゴム手袋をはめ慣れた手つきで私の目の前に来たそれを捕らえて外に出そうとするところを、なんとなく譲ってもらって持ち帰り、娶った。 糸を吐くでもないので、部屋…

【小説】差別の無い未来

倫理的な向上の過程は、直感を論理が、感情を理性が制していく過程である。 ”場にそぐわないカテゴライズ”がかつて、差別や嫌がらせ、プロトタイプ的思考を生み出していた。 人類が陥り、やがて克服したものの一つに夏生まれ差別がある。 かつてあった、場に…

【小説】射撃練習場

新しい射撃練習場ができたので早速行ってみる。 ブースに入る。壁に大きく映像が流れる。先日私を振った恋人と私が仲睦まじくしている過去の映像だ。 なんて羨ましくて可哀想なやつなんだ。この後の展開も知らずに楽しそうにしやがって。 私はスクリーンが真…

無題

貴方の有り余る正のエネルギーと私の有り余る負のエネルギーはどちらも落ち着く先を求めるので稲光が天と地を繋ぐのです。

【小説】箱庭

箱庭がある。箱庭療法で使うような箱庭を思い浮かべれば良いだろう。 箱庭の中には家がある。ちょっとした庭のある、比較的大きな家である。家には現在三人の人間が住んでいる。四方を壁で囲まれた箱庭の中だけが彼らの世界だ。 そこにははじめ五人の人間が…

【小説】理想郷物語

南半球のとある小さな島に、珍しい生態系が存在した。ヒトから枝分かれしたその生き物は、ヒトの子供並みの知能と体力しか持たなかった。しかしその島は外敵が少なく、淘汰されず生き残った。その生き物の寿命は十二年ほど。細胞数はヒト並みだが、分裂で増…

【小説】千手さまの創世譚

千手さまはその有り余るエネルギーで、本来の仕事、すなわち生業やお家のことやご自身のことを完璧以上にこなしていらっしゃいました。まだ余るエネルギーは素晴らしい余暇の為に使われました。そして慈悲深いことに、その一部を使って、この宇宙を作ってく…

【俳句】2018年1月23日~3月30日

かつてこの星に菜の花摘める女児春来るパノラマ島の廃墟かな真っ暗なところへ消えた引鶴よバスの屋根に乗せる架空の麦鶉人の塵或は花粉積層す春昼の地球に置いていかれたるまだ生まれたくない子にも春来る蝶生まる今日も天気がよく寂しい風呂桶を黒く満たし…

【小説】へびぃ

宇宙からもたらされた新生物へびぃは瞬く間に地球で驚異的人気を博した。可愛いへびぃの姿が見られるへびぃ園が乱立し、それを見に行くだけで飽きたらない人たちが家庭でのへびぃの飼育を始めた。へびぃの寿命は二十五年ほど。最初の十年ほどがもっとも可愛…

【小説】奴隷召喚

一組の男女が魔方陣に手をかざしている。魔方陣はやがて妖しい光を放ち、一人の人間がそこに姿を現した。彼は元の世界で何の起伏もない真っ平らな幸せ過ごしていたところを何の理由もなく突如としてここに連れてこられた。これは奴隷を召喚する儀式なのであ…

【小説】不幸の原因

僕は不幸だ。長く一緒に住んでいた恋人が浮気相手の子を身籠って出ていってしまったのである。僕は不幸の原因である彼女を恨み続けている。 私は不幸だ。遊びで付き合っていた人に妊娠させられて不本意な結婚をし、不本意な子育てをしている。私は夫を恨み続…

【小説】悲しい眠り姫

昔々ある国に、一人のメンヘラ女がおりました。この国の王さまがこの女の色気に嵌まってしまい、周囲の反対を押しきってこの女を妻に迎えてしまいました。 王さまの周りの者たちは、跡継ぎは別の者に生ませて、どうか二人の間に子供だけは作らないようにと釘…

【小説】恐ろしい世界

爆発物を使った危険な遊戯。多くの人がのめり込む。安全装置が存在するのに、死亡事故が頻発する。事故を起こした者になぜ安全装置をかけなかったか聞くと、ついつい、面倒だったからと答えが返ってくる。そうしてそれを聞いた者も、多くの場合、そんなもの…

【小説】メデューサのパンツ

同じクラスにメデューサと呼ばれている女の子がいた。学校ではスカートめくりが流行っていたのだが、彼女のスカートの中を見た男は石になってしまうらしいのだ。そんなことになっては取り返しがつかないので、彼女はいつもズボンを履いていた。 メデューサは…

【小説】誕生日

「ハッピーバースデイ!」 集まってくれた皆がクラッカーを鳴らし、拍手をしてくれた。私は笑みと共に、飛び石をひとつ埋めた。 こうして誕生日が来る度に一つずつ埋める飛び石は、生まれたときに建てた墓まであと半分ほどの距離になった。 「ありがとう、み…

【小説】平等

高架下の広場に物乞いがいる。 乾パンの空き缶を前に置いて、黙って呉座に座っている。 この街にも他にもホームレスはいるが、こんなふうにあからさまに物乞いをする者を私は今まで彼以外に知らない。 私は彼を初めて見たときから、心の中で密かに彼を讃え応…

【徒然】

残酷なこと考えたり書いたり読んだりしても、それを実行してしまうのは気持ち悪い。 かつて聞いたその考えがふいに実感できたことであった。

【小説】生物N企画会議

…以上が今度進化実験を開始する生物Nのデザインの大まかな説明になります。 ポイントは、家事、仕事、コミュニケーション等についてよくできる個体は性欲と性的能力も強くしてあるところです。これによって優秀な性質が残っていくことになります。 それに、…

【小説】ニートミーツガール

アイドルユニット、シュフズのメンバーは二人とも専業主婦である。が、経歴は随分違っていた。 マナカ(28)は有名大学を卒業後、大手企業に就職。明るくリーダーシップがあり、それでいて気配りができる優しさを持ち、慕われる。たくさんの革新的企画を成功…