2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

【小説】猫の気持ち

いつ死んでも構わないと思うこと。それが気ままに生きるコツだ。人間で言えばニートのようなものである。 現在、家猫である私には飼い主がいて、食べ物や玩具の世話をしてくれる。しかしこの状況を当たり前だと思っているわけではない。ただの幸運である、と…

【小説】犬の気持ち

ここの家で暮らして三年になる。 俺は犬であり、飼い犬のおそらくほぼ全ては食糧と住居の供給をその飼い主に依存しているであろうが、本来動物は自ら己の世話をするものだ。その信念を忘れないことが生きるものとしての誇りである。 だらけきったような顔を…

【小説】城主と泥棒

城主は秘密を持つような人間ではなかった。むしろ、人々がなぜどうでもいいことをそんなに秘密にしたがるのか、不思議に思っていた。しかし城主にもただ一つ、絶対に守らねばならない秘密があった。その秘密がこの城を、城主を守っている。 籠城する前(と言…

【小説】無が道理を抜け出せていると願っている

大切なものが減る度、剥がれ落ちる度、私ももうすぐ連れていってもらえるのだと嬉しくなるのである。 空を飛ぶ夢をよく見た。ただし、思いのままに気持ちよくは飛べなかった。必死で手足で空気を漕がないと浮かんでいられなかった。重力は、道理は、相変わら…

【小説】反出生主義への論駁の一端または見えていないものの否定

恋人が死んだ。 嘆き悲しんでいるとタイムマシンが現れ、中から案内人のような人が出てきた。 「時間を遡って別の分岐に入れば、お客様のお連れ様は十分に長生きします。しかしお客様と出会うことはなくなります。何階まで行かれますか」 「結構です」 私は…

【小説】似た人

最愛の妻が事故で死んだと知らせを受けたのは海外の出張先でだった。即死だったそうだ。会いに行くこともできなかった。 田舎に帰ったときに大規模な災害に遭ったらしく、情報は交錯していた。 何を考えることもできなかった。ただ悲しく悔しく、状況を憎み…

【小説】おばけ

私にだけ見えるおばけがいます。 おばけは気持ちの悪い見た目で、ごはんのときなどに出てくると、気持ちが悪くなってごはんを吐き出してしまいます。 でもおばけは私にしか見えないので。みんなは私を変だと言います。ごはんを吐き出すと、怒られます。 夜ベ…

【小説】千手さまは偉大

千手さまは偉大であるなあ。 ええ本当に。 千手さまは私たちの数分の一しかお寝にならないらしい。なんとも、一日の半分しかお寝にならないらしいのだ。 まあ。 それに、私たちは毎日歌って踊ることしかしていないだろう。それだけだと実は死んでしまうらし…

【小説】ねんたぱる

金星に留学して一年。ここの言葉もかなりしゃべれるようになったし、三本箸も上手く使って食べられるようになった。十歩歩くごとに一度スキップを入れる歩き方にも慣れた。友達も増えた。恋人も百人できた。 随分馴染んだものだ。我ながら、こだわりを持たず…