2018-02-19から1日間の記事一覧

【小説】城主と泥棒

城主は秘密を持つような人間ではなかった。むしろ、人々がなぜどうでもいいことをそんなに秘密にしたがるのか、不思議に思っていた。しかし城主にもただ一つ、絶対に守らねばならない秘密があった。その秘密がこの城を、城主を守っている。 籠城する前(と言…

【小説】無が道理を抜け出せていると願っている

大切なものが減る度、剥がれ落ちる度、私ももうすぐ連れていってもらえるのだと嬉しくなるのである。 空を飛ぶ夢をよく見た。ただし、思いのままに気持ちよくは飛べなかった。必死で手足で空気を漕がないと浮かんでいられなかった。重力は、道理は、相変わら…

【小説】反出生主義への論駁の一端または見えていないものの否定

恋人が死んだ。 嘆き悲しんでいるとタイムマシンが現れ、中から案内人のような人が出てきた。 「時間を遡って別の分岐に入れば、お客様のお連れ様は十分に長生きします。しかしお客様と出会うことはなくなります。何階まで行かれますか」 「結構です」 私は…