【小説】真っ黒な落書き

棚にはトロフィーが並んでいた。

「すごいね、こんなに賞を取ってきたなんて」

「うん。だって皆に喜んでもらえるものを創りたくて必死でやってきたのだもの。人に喜んでもらうことが好きなの。賞だけじゃない。誰か一人のために創ったことも何度かあった。皆その人の人生が変わるくらい感動してくれたよ」

「あなたが発表するものはいつも他人のために創ったものなんだね。ところで、その壁に掛かっている、真っ黒な落書きみたいなものは」

「これは私の心をそのまま吐き出したもの。汚い吐瀉物だよ」

「それは発表しないの?」

「何人かに見せたことはあった。その人達は酷いものを見たと嘲笑った。あるいは怖がって離れていった。もう誰にも見せないようにしている」

「私はその作品が一番好き」

「嘘」

「本当だよ。だって私はあなただから。世界でたった一人、私だけは、あなただけは、完全にその作品と共鳴するんだ」

二人は一つに戻り、それ以外の全てが消えた。