【小説】マモノ


とある集合住宅に一人のマモノが住んでいたそうです。
マモノは姿形も過ごし方も、ほとんどヒトと同じでした。違うのはココロに欠陥があることでした。
しばしば悲しく苦しくなり、上下左右の部屋に聞こえるような雄叫びを上げました。スーパーマーケットに食料を買いに出るときには、赤く腫らした目と真っ青な顔で、うつむいてとぼとぼ歩きました。
周りに住んでいるヒトたちはマモノを恐れ、マモノの部屋の前を通りたがりませんでした。コドモがいるヒトたちは不安になり、マモノをなんとかできないものかと自分たちで、また周りにも相談しました。そんな話がわたしの耳にも入ってきました。

そして、少しして、マモノは死んだと聞きました。集合住宅のベランダから飛び降りたそうです。そう話すヒトは、マモノの、最後まで気味の悪い行動に顔をしかめ、しかしコドモに何かある心配がなくなりほっとしているようでした。
わたしはそのヒトのコドモが無事で安心しましたけれど、それよりもずっと、そのマモノが死んだことを悲しく思いました。
なぜなら、わたしもおそらくマモノだからです。