【小説】都会のゾンビ

サトコは乗車券を握りしめて特急に乗った。今日は憧れ続けた都会での生活が始まる日だ。
娯楽にあふれ洗練された優雅な生活。幸せな恋と結婚と家庭。都会に行けばそれが手に入る。狭い世界で手に入らなかったものが、都会でなら、自分にだって手に入る。
土中の蝉のようにそう信じて過ごしてきた。
 
サトコがそんな車中にいるときに、あの人類を滅ぼしたゾンビパンデミックは起こった。
以下は彼女が残した記録映像である。
 
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「はい、こんにちはー、サトコです。
いつも『サトコの田舎な毎日』見てくれてありがとうー。今電車の中です。今日は憧れの都会スペシャル!をお送りする予定だったんだけど、なんかゾンビとか出てきてるみたいなんで変更して、都会のゾンビの様子をレポートしてみたいと思いまーす。なんかすごいざわついてるから、電車の中で動画撮ってても別に怒る人いません(笑)
この投稿が最終回になりそうな気がするけど、今回もよろしくお願いしまーす」
 
「はい、着きました。って言っても外はゾンビだらけだから中に入れないように電車、最高速度で行ったり来たりして逃げてたんだけど、ついにドア破られちゃったってかんじですねー。ってことで、外に出てみたいと思いまーす。よいしょ、と。荷物でバリケード作ってあって邪魔ですね。じゃあ適当にゾンビ避けながら噛まれるまでレポートしたいと思いまっす。
ゾンビって生前の習慣を繰り返すっていうじゃないですか。だからここのゾンビ見てたら都会の人たちがどんな生活してるか見れちゃうと思うんですよね!楽しみです。
 
面白いゾンビがいたら近づいてみようと思いますが…
お、これはなんだか、家の前で行ったり来たりしていますね。きっとこの家に好きな人が住んでて、生前何度も近くまで行っては帰ってきたんでしょうねー。これは田舎でもある光景ですね。
 
はい次、中になんか居そうなのでお家に入ってみまーす。これは…なんかしゃがみこんで…、あ、卵生んでます。卵じゃないか。なんか赤黒いぶにぶにしたものです、若干脈打ってますね。どんどん生んでます。
この人こそはきっと私が憧れてたような都会人!好きな人にいっぱい愛されて、幸せな家庭を築いたんでしょうねー。あやかりたいですねー。この卵一個もらってこっと。煎じて飲みます(笑)
 
こっちに男のゾンビもいますね。ん?なんだか見覚えが…あ!これ、私が遠恋中だった彼氏ですねー。と言ってももう三年くらい連絡取れてなかったんだけど。
 
おっ、こどもゾンビです。たくさんいます。
あ、噛まれちゃいましたー。というわけで、今回は以上です!ご視聴ありがとうございましたー」