【小説】生物Nについての研究

生物Nには大きく違う二種類の個体がいる。繁殖型と非繁殖型である。
 
繁殖型は総じて優秀である。食糧や住処の確保および維持の効率の良さ、同種の生物とのコミュニケーション能力、判断能力、記憶力、行動動機の強さ、運動能力。全てにおいて非繁殖型とは比べるべくもない差がある。これは次の個体を生み育てるということの難しさからして、当然の帰結であると思われる。
 
非繁殖型は生殖能力自体はあるにも関わらず、基本的に生殖しようとしない。偶然に繁殖が起こったとしても、世話をしようとせず又は能力の欠如故にしようとしても失敗して次世代の個体を残すことができない。
非繁殖型は主に繁殖型の作ったインフラに寄りかかって生存している。繁殖型と比べると意識は常に混濁気味である。あまり動かないことによってエネルギーを節約しているとも取れるが、この型が存在することによって種に与えている何らかの良い影響は今のところ見出だされていない。よって、それが存在しないと判明したならば、そもそも少しでも資源を消費すること自体が無駄であると言えるだろう。
非繁殖型のうち比較的優秀な者は自分自身の分より少し多いほどの食糧や住処を確保することはできる。(ただし繁殖型の作った仕組みの中において。)それもできない者は、繁殖型の個体や、自分よりは優秀な非繁殖型の個体に寄生している。
非繁殖型の個体たちは主に、自分や生物やこの世界の存在意義や、意識が生じる仕組みなどについて彼らなりに考えて過ごしている。それを彼らに与えられた仕事だとする、彼ら独自の宗教のようなものを信じているようである。
 
生物Nにおける最大の、非常に興味深い謎は、非繁殖型がなぜ存在するのかということである。繁殖型が生み出す個体のうち半分に繁殖型、もう半分に非繁殖型が生じるとして、なぜ優秀な繁殖型は自分達に寄生する非繁殖型を処分してしまわないのだろうか。
これは蛭に取り付かれたのに何の対応もせずに血を吸われ続けているようなものである。
今後の更なる研究が期待される。