【小説】回るおもちゃとの暮らし

寂しかった。誰も私を愛してくれない。一緒にいて楽しいと思ってもらえない。
そして何より、愛されたい、必要とされたい、などと思ってしまうのが困ったことだった。

そんな不穏な精神と戦う武器、あるいは寂しさを紛らわせてくれるペット、あるいは単純だけれど凄い精神作用を持つ多次元不思議道具。それが回るおもちゃだった。
まず名前がなんだかかっこよかった。回る。そう言っているだけの名前だがかっこよかった。
そしてばかばかしかった。名前の通り回るだけの存在。その無意味さは、人生そのものの無意味さに寄り添い、慰めてくれた。

机に置いていて指があたればゆるく回りだし、しばらく回っていた。なんと可愛らしいのだろう。ひとつの生き物と思わずにいられなかった。
回りながら、憂鬱を蹴散らそうと懸命になってくれている気がした。健気だ。あまりにも。そして美しい。目が回るほどに。

こいつは私に懐いてくれている。私を愛してくれているから必死で慰めようとしてくれているのだ。
こいつが回っているときは、こいつに免じて少し寂しさを眠らせようと思う。