【小説】望んだ者二人の話

ここに一つの望みがある。そしてその望みを望んでいた者が二人居る。ある者への恋の成就という望みである。一人は死んでいて一人は生きている。すなわち一つの物語はバッドエンドを迎え一つの物語は途中で忘れ去られた。

森に隣接する墓である。二人はそこに居た。一人は死んで。一人は生きて。もちろん死んでいる者は"居ない"が、言葉のあやである。その者をしのぶ為に生者たちが立てた墓がそこにあるという意味だ。生きている方の者は死んだ方の者の墓の前に座っていた。生きている方の彼女も、死んだ方の彼女がそこに"居る"とは特に思っていない。

生きている方の彼女は失恋の為に自殺した友人を思っている。目の前の墓に名を刻まれた彼女だ。二人が想っていた男がなぜ二人を振ったのかはここでは重要ではない。望みがかなえられなかったということが重要である。

そして生きている方の彼女はかつて自分の中にあった非常に強い想いについても考えている。目の前の墓の彼女も同じような想いを抱いていた。そして彼女の想いは彼女に居座り彼女を殺し、自分の想いは幸運なことに自分を殺す前に気まぐれに薄れ、消えた。それでもかつての苦しみを思い出すと吐き気がする。その想いを抱いたいたという苦しみである。神のような者がいたとすれば、自分だけがなぜかその罰から解放されたのである。

バッドエンドながらも終わった物語と、紡がれ切らずに途中で忘れられた物語。どちらが幸福だろうか。墓の中の彼女と自分。どちらが幸福だろうか。彼女は考えている。

こんなに苦しむのならこの世界などなければ良いのに。そう思っていた。墓の中の彼女はそのとおりになったのである。