【小説】ある鼠の独白



風見鶏は風と遊び、かかしは鳥と遊んでいる。ヒトには恋人や友達や家族、あるいは思考がある。誰も僕を必要としない。鼓動が始まってから終わるまで、誰だって寂しさと退屈を紛らわす必要がある。そのために一緒にいる誰かが、誰にだって必要だ。僕は誰かのそれになれない。僕のそれに、だれもなってはくれない。優しいやつが通りすがりに僕に束の間微笑みかけて去っていく。僕にはそれが余計に辛い。そのおこぼれの幸せが無理矢理引き剥がされていくたびに僕の皮膚はそれと一緒に持っていかれてぼろぼろになっていく。たぶん僕に必要なのは無関心になることだ。誰かの優しさにも、愛しさにも、ぼろぼろの皮膚にも、寂しさにも、悲しみにも、明日の幸せにも苦しみにも。道ばたの石ころみたいに、それらに気付かないことだ。そうすれば、そうできれば、いつか鼓動も終わる。もう失わなくてよくなるのだ。