【小説】擬人化恋愛感情たん

うちがいるとご主人が苦しむってこと、わかってるんです。
ご主人は好きになった男の人たちに、狂ってる、怖いてゆわれたはります。でもほんまに狂ってるんはうちやと思います。
ご主人は恋して辛いとき、体力もなくて肌もぼろぼろやけど、恋の一瞬の幻想に舞い上がってるときのあの人はほんまに綺麗なんです。もともとスタイルええのにさらに背筋がしゃんとして、肌も張りがあって、つやつやのまっすぐな黒い髪、幸せそうに揺らして。眼鏡の似合う美人さんなお顔、ええ表情されて。そういうもの与えてるんはうちなんです。こう言うと自惚れみたいやけど、そういうことなんですから。ご主人に降りてくる恋。それがうちなんです。
でもご主人がそんな風に幸せそうにしたはる時間はたまにしかなくて、しかも一瞬で終わります。大概ご主人は恋のせいで苦しんだはる。見てられへんほどにもがいて、痛みにのたうち回ったはる。そうさせてるのもまたうちなんですね。わかってます。うちもまた、痛いほどわかってるんです。
うちかて、ご主人が好き、です。ご主人が男の人たちを好きになるっていう好きとは、これはまた違う好きなんやと思います。うちは人間やのうて概念?やから。
でも、ご主人の側にずっといてしまう。どうしようもなく引き寄せられるようになってるってことを好きって言うんやったら、うちはご主人のこと好きです。どうしようもなく好きです。

でもご主人はうちと離れることにしたんですね。おめでとう、って言いたいんです。ほんまに。だってもう、これでしばらくご主人は苦しまんくてええんやから。うちのせいでご主人が苦しんでるとこ見んくてすむんやから。まあ完全に離れるには少し時間がかかるやろうから、まだしばらくは遠くからうちのほう振り返ったはるやろうけど。
ご主人がそうやって決意して、うまくやったら、うちはご主人から離れることができるんです。またすぐ行って苦しめてしまうかもわからんけど、今は、しばらくだけでも、ご主人は苦しまんですむ。
ご主人と離れるん寂しいです。辛いです。でも、おめでとう。ご主人、しばらく休んでください。

ご主人はうちのこと憎んでるんや思います。でも同時にどうしても離れ難く思ってる。だからご主人、これからも…

 

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