【小説】ニートミーツガール

アイドルユニット、シュフズのメンバーは二人とも専業主婦である。が、経歴は随分違っていた。
 
マナカ(28)は有名大学を卒業後、大手企業に就職。明るくリーダーシップがあり、それでいて気配りができる優しさを持ち、慕われる。たくさんの革新的企画を成功させ無くてはならない存在となる。
職場で出会った男性とお互いの知性と感性に引かれ合い、結婚。出産を期に惜しまれつつも一時退職。早く戻ってきてほしいと切に乞われているが、末の子が小学校に入るまでは育児とアイドル業に専念したいと、待ってもらっている。
最近一等地に家を建て、そこに越した。休日には夫と子供たちと共にキャンプに出掛ける。趣味は料理。三児の母。
デビュー前に得ていた称号はキャリアウーマン。
 
ニコ(30)は地方の短大を卒業後、特に何もせず数年を過ごす。親に責められ週一、三時間のバイトをするも、馴染めずにすぐ辞める。その後も二三のバイトをするがすぐ辞める。アニメファンサイトのオフ会で知り合ったフリーターの男性と価値観が合い、結婚。長屋の一室に住む。休日には夫とスナック菓子を食べながらゲームをしたりアニメを見て過ごす。
デビュー得ていた称号は家事手伝い、ニート、ブロンズバックラー、図書館ロビーの住人。
 
ある本番後にニコが切り出した。
「マナカ、私ね、好きなことしてれば、アイドルでいられればそれで幸せだと思ってた。評価されるかされないかなんて、関係ないって。でも。
マナカもわかってるよね、シュフズのファンはほとんどマナカのファンだって。
マナカは可愛いし、スタイルもいい。歌もダンスも上手い。さっきの最後の曲、私が歌った部分、Hey!とWow!だけだったよね。マナカが後方宙返りきめてお客さんの歓声は最高潮に達した。私は曲の間中ずっとボックスステップしかしてなかった。楽器使う時はマナカはグランドハープ。私は手拍子。私たちの曲の作詞作曲編曲も全部マナカ。ジャケットのイラストも、プロモーションビデオの監督もマナカ。衣装のデザインと作製もマナカ。お弁当の注文も、移動の時の運転もマナカ。ライブの列整理も受付も音響も照明も舞台設営も全部マナカ。マナカがそうしてる間に私は自分の衣装のファスナーが引っ掛かったのを直すので精一杯だった。
マナカはすごいよ。これからもそうやっていくんだろうね。でもね、私はさすがに自分が嫌になる。マナカの隣にいると。思い知らされ続ける。自分が屑だって。それに私にだってわかるよ。自分がマナカと同じ舞台にいちゃいけないって。
だから、私はもう舞台を降りるよ。さよなら、マナカ」
 
「待って。どうして、ニコ。これまで一緒にやってきたじゃない。私たち同じ専業主婦アイドルじゃない。
ニコは頑張ってる。ボックスステップだってたくさん練習してできるようになった。トークで噛む回数も減ったしマイクに歯をぶつけることもあまりなくなったじゃない。ライブの時、”ニコ”コールもちゃんと聞こえてくるよ。ニコのお母さんと旦那さん、すごく声大きいもん。ニコが居なかったら、握手会で私との握手の抽選外れた人はどうすればいいの。ニコが居なかったら、舞台が横長な時ちょっと空間の配分的にオブジェ置きたいかんじになっちゃうよ。
ニコにはニコの良さがあるのに、どうしてなの」