【小説】権助の話

権助は悪人だ。極悪人だ。これまでいろいろな悪事をはたらいてきた。盗みも放火も人殺しもした。財産をなくした人も家をなくした人も大事な人をなくした人も悲しんだ。

権助は悪人だ。だけどあるとき権助は、急に悲しくなってきた。今までやってきたことを、急に後悔しはじめた。二度と戻らないあやまちが、だけれど、権助の中で絶対的な存在感をもって巣喰っていた。

権助はお星様にお願いした。
「私が今まで傷つけた人たちを、どうか救ってください。悲しみを取り去ってあげてください。」
お星様は、
彼らの悲しみをぬぐってあげることはできるけれど、なくなってしまったしまった財産や家や大事な人は戻ってこない
と言った。彼らの悲しみは、それらの大切な記憶をつなぎとめているのだと。
「それでは、私に罰をください。一生重たい足かせを、つけて歩かせてください。」
お星様は、権助の願いを聞き入れた。

権助は、重たい足かせを引きずっていることで後悔の苦しみを少なくすることができた。だけど今度は足かせの重さにたえられなくなってきた。自分の外から来るものとばかり思っていた苦しみは、自分の中からも、実は涌いてくるのだった。権助はしばらくそうやって苦しがっていたが、やがてもう限界だと思って、お星様にお願いした。

「私はもう十分罰を感じました。この足かせは、とても重くて苦しいです。どうかこれをはずして、私を救ってください。」
お星様は、
おまえの足かせをはずすことはできるけれど、おまえの罪を消してしまうことはできない
と言った。だから罪を犯したおまえに見合う足かせを、はずしたりはしない、と。
権助は落胆した。罰を求めた自分を呪った。


それから幾度も季節と時間が巡ってからのこと、権助の足かせは、ある日すうっと消えてしまった。しばらくしてそれに気づいた権助は、不思議に思ってお星様にたずねてみた。
「どうして私の足かせを、はずしてくださったのですか。」
お星様は、
おまえの罪は、おまえのものだ、決しておまえの外にあるのではない、その足かせは、おまえの罪を示してはいない
と言った。おまえがそれに、気づかないうちに気づいて、その罪を本当におまえの罪にしたから、足かせは必要なくなって自然に消えたのだ、と。
権助はこれからこの罪をずっと自分の一部としながら生きてゆくのだと思って、なんだか一つの涙を流し、だけども強く、生きていった。