【小説】ヒトに恋したマモノ

おいで、とその人は言った。それに逆らうことはできなかった。どうせ後で悲しむ。度重なる過去の経験は警告していた。でもそれらも役割を果たさなかった。求めてやまなかった。もう遅かった。その人の元に走った。体が壊れるくらいにはやく。その人はいなかった。どこを探してもいなかった。その人に繋がるどんな手段もなかった。その人の名前だけが記されていた。それはもう何の意味もなさなかった。記憶にだけ刻み込まれたまま。行き場のない衝動だけを残したまま。

 

その人の後ろ姿を見つけた。身体中を血が物凄い勢いで駆け巡る。嬉しさと緊急事態の警報が頭に鳴り響く。二度と逃してはならない。今確実に仕留めなければ全てが終わる。手を伸ばした。まだ届かない。仕留めなければ。ありったけの矢を放った。矢は全てその人に命中した。そしてその人は絶命し、消えて無くなった。