【小説】無が道理を抜け出せていると願っている

大切なものが減る度、剥がれ落ちる度、私ももうすぐ連れていってもらえるのだと嬉しくなるのである。

 

空を飛ぶ夢をよく見た。ただし、思いのままに気持ちよくは飛べなかった。必死で手足で空気を漕がないと浮かんでいられなかった。重力は、道理は、相変わらず私を捕捉していた。鳥と同じように不自由だった。

手から離れた風船が空に吸い込まれて消えていくさまは寂しい。自分が残されたと、置いていかれたと感じるから。

 

原形もとどめない塵になって、空気よりも軽いガスになって、否、三次元的道理を抜け出した未だ知らぬ物質になって逆さまに空に落ちていく。風などなくても。細胞が一つ減り二つ減り、わからないことが一つ増え二つ増え、意識が薄くなる。高く昇るほど、空気と同じに。小さく小さくなって、消えてなくなる。

私もいつか、そこへ行ける。だけれど、これは誰の視点なのだろう。