【小説】続々・マイクロバイオーム

菌たちと喧嘩した。
その結果がこれ、便秘である。
部屋の外で受けるストレスで俺はまた食生活が乱れていた。粉っぽいお菓子をろくに噛みもせず消化器官に放り込んだり昼夜と無く延々手持ちぶさたを埋めるように何か食べ続けたりした。
もちろん彼女らは文句を言った。
「そんな食べ方したら体壊して余計辛くなるだけよ。消化器官を大事にすれば心も楽になる。別に、あなたのために言ってるんじゃないんだからね!」
彼女らの言うことはわかったが、俺はその食生活をやめられずにいた。
「あなたが苦しんでるの見るのが私たちどれだけ辛いかわかってるの?ひどい。もう知らない!」
彼女らは強硬手段に出た。ストライキである。腸に送られてくる食べ物の処理はストップ。腸の内容物は放置された。
俺も言い返した。そんなこと言ったってどうしてもこうなっちまうんだ。おまえらがそれでもなんとかしてくれないからいけないんだろ。
俺たちは泣いて喧嘩した。

俺たちは一つになりすぎていると思っていた。もう俺と彼女たちではない、「俺」だと。また独りぼっちだと。
喧嘩しながら思った。でもこんなやつら自分であるはずがない。わかってくれない、わからない。こいつらは俺の中にいて、俺とは別個の者なんだ。

お互いを想っているのに、自分を、相手を傷つけてしまっている。そんな自分の不甲斐なさに苛立って怒鳴りあった。
「ばか!どうしてこうなの?…私たちが、もっと強かったらよかったのに。もっと迅速に腸の内容物を処理できればあなたにもっと安心してお菓子を食べさせてあげられるのに…」
ちがう、おまえらはいつも俺のこと考えて、がんばってくれてるのに、無茶させた。ごめん。
そうして俺たちは泣いて仲直りした。

「もう!溜まった内容物の処理大変なんだからもっと消化の良いもの食べなさいよね。」
それはおまえらがストライキしてたから余計そうなったんだろう、と言おうとしてやめた。彼女らの言葉からは愛だけが感じられた。

今はまた「俺」は、「俺と彼女ら」になっている。結局どちらであるのか、俺はまだ確信が持てない。でもこれだけは確かだ。俺は彼女らを愛している。