【小説】逃亡生活の二人

星間戦争は静かに続いていた。敵は、この星の生命誕生に手を貸し観察を続けてきたN星雲のP星である。

P星の生物兵器寄生虫Xが戦線に投入されてから、この星はさながらゾンビ映画の舞台のようになった。映画と違うのは、寄生されても見た目はほぼ変わらず、普通の人と見分けがつかないこと。Xは脳に寄生し、元の人格は消失するが、身体は脳に栄養を送ることを含め寄生前と同じように機能する。もう一つの映画との違いは、Xが高い知能を有し、寄生前の人の真似をし、あたかも寄生がなされなかったかのように演じることができるということだ。

相手が十分な隙を見せるのを待ち初めて正体を現し、蚊の針のようなものを現宿主の身体の一端から出し、相手を刺す。Xの子の新たな宿主への寄生は一瞬で完了する。背骨の辺りに、肉眼ではわからないような小さな刺し痕だけが残る。

この星の一角で生き残った二人が逃亡を続けていた。二人はかつて最後の防衛軍の小隊を率いていた。

自分達以外仲間のいなくなったこの星の数百メートル四方を爆発物で吹き飛ばし安全地帯を作り、しばらくそこで生活し、敵が近づき始めたらまた少し移動して爆発を起こすのを繰り返していた。

自分達はまるでこうして二人で過ごすためにこういうことをしているみたいだ、と一人が言った。

やがて二人は危機に見舞われた。

それぞれが敵に囲まれ、襲われる。ほぼ相討ちの状態で敵は倒れた。相棒は刺されていないか。身体を引きずって駆け寄り、変わらぬ姿に安堵しあった。

二人はまたいたわりあいながら逃亡生活を続けた。

数十年後、老いた二人の遺体の背中には、古い刺し痕があった。