2017-09-21から1日間の記事一覧

【俳句】2017年夏ぐらい~9月21日

こうなると全部知ってた木の葉散る恋の歌避けて歩けば栗おこわあの頃の君を今恋う衣被ふわふわの九月をずっと眠っている木の実雨つぷつぷその下を走る水馬森室長の居た後にどこまでもクッキー伸びる夜長かな此処に居て良いのですかと桔梗咲く安らかにあらん…

【小説】足

今朝私が自分で食べて途切れたままになっていた足の一本を彼はいとおしそうに撫でてくれました。私たちはたくさんある足を動かして空間的会話をするので未来のことがわかる脳の構造をしています。だから彼がすぐに私を疎ましく思うようになることはわかって…

【小説】見回り

対象者の一人、千代さんの独居の部屋のチャイムを私は左手で押した。右手にはリコーダーを持っている。 累進的超高齢社会と呼ばれる現在、見回りの職に付くものは多い。お茶の配達、肩揉み、音楽の出張演奏、宗教や保険の勧誘など、カモフラージュの形は様々…

【小説】採血

採血用のハツカネズミが血を含んで真っ赤に染まった。ネズミは奥の部屋に向かおうとして誤って消毒液の中に落ちた。液体に赤い色を滲ませながら溶けて死んでしまった。看護士さんが申し訳なさそうにもう一匹のネズミを連れてきた。私は反対の腕を出した。

【小説】日々

彼は水星の裏庭に住んでいる。そこそこ近い。金星の三番地に共通に行ったことのある店がある。ツノの後ろが痛むときの対処法などを教えてくれた。毎時通信蝙蝠を放ってくれる。私は寂しくない。でも寂しいときもある。黄砂の粒子が大きすぎて時間が止まると…

【小説】終末の三人

世界が終わるとき私たち三人は交合っているところだった。他の人たちに対して申し訳なさそうにあるいは開き直っている振りをしてなおその実申し訳なさそうに隅に寄ってきた結果狭いところに集まってしまい交合う形になっていたところだった。そのとき調度世…

【思考】恋のやめ方2/執着の理由

手に入らない部分に目が行ってしまうような対象というものが存在する。なぜそうなるのか。「思ってたんと違う」感によってそうなるという説を考えてみる。 相手が自分に一定以上親しみを感じてくれている。そしてそれを示してくれるだろうと思っている。そう…

【思考】恋のやめ方1/恋とは手に入らないものへの感情のことである

恋とは手に入らないものを手に入れたいと思うときの感情のことである。そう思い付いた時、随分頭がすっきりした。そう考えるのがわかりやすく、日常の言葉の用法ともそこそこ合致する場面があると思う。手に入らない部分に目を向け続けている状態。正確には…

【小説】時間の流れない世界に於ける得失

あなたがたにもわかる言葉で話すことにしよう。永遠の広さを持つ時間に於いて私はあらゆる場所に予め存在していた。その少なくとも一部に私が存在すると知っているからである。あなたがたの恐れている或いは待ち焦がれている死について私は語ることができな…

【小説】知る前と後の非対称性

こんなに苦しむのならあの人のことを知らなければよかった。私はタイムマシンで過去に行き、あの人に出会う前の自分に囁きました。今日は家を出てはいけない。過去の自分はそれに従ってくれて、あの人に会うことはなくなったようでした。しかし私の頭の中に…

【小説】異世界夫婦

あるとき別の世界から一組の夫婦が移り住んできました。二人はできる人たちだったので、新しい世界の習慣にすぐになじんで、まるで元からずっとこちらの世界で暮らしている人のようでした。しかし二人だけでいるときは、地元を懐かしむかのようにかつての習…

【小説】千手さん

彼は恋人にもっとかまってほしいと言われていました。しかし一本の手で仕事をし、一本の手で家の用事をすれば、もう恋人のために割ける手は残っていませんでした。同じような不満を友達からもたくさん聞いていました。彼は星に願いました。恋人のために使え…

【小説】片想い治療法

片想いする者に寄生して宿主を取り殺してしまう茸。名をニコチン茸という。この茸による病の流行で、人類はやっと片想いの害悪に気づいたという専門家もいる。この茸に寄生された場合の現在の唯一の治療法は、片想いをやめることである。薬などはない。本人…

【小説】死後

死んだらどうなるか。色々な宗教が色々なことを考える。実際はこうである。死んでからも世界の続きを知ることができる。小説として。私は病気で死んで、一冊の本の読者になった。私の生きていた世界の続きを綴った物語の。こう言った方が正確だ。死ねば、生…

【小説】猫男の恋

全ての猫に愛される男。それが俺だ。実際、一丁目の猫で俺についてこない猫はいなかった。俺の家は猫ハーレムと呼ばれていた。どこかの金持ちの家で飼われている血統書付きの猫も、愛らしくて皆が撫でようとするのだが警戒心が強くて他の誰にも触らせないよ…

【小説】ショーケース

僕は世界を救うために異次元に向かう。この世界を出れば僕に関する記憶は皆の頭から消えてしまう。物も記録も消えてしまう。僕ははじめから存在しなかったことになるのだ。それでもいい。世界が救えるのなら。 彼はそう言った。砂子は彼に懇願した。私だけは…