2017-10-25から1日間の記事一覧

【小説】人事異動の季節

仲の良いクラスメイトが遠くへ行ってしまったといって、下の子が落ち込んでいた。 異動の季節である。周りのメンバーは毎年のように変わっていく。この子はどうしてこれくらいのことで落ち込むのだろう。去年は隣のおばさんが異動になったし、一昨年はお祖父…

【小説】金星まんじゅう屋

君を好きではなくなった。君には何も悪いところはない。僕がただ心変わりしたのだ。本当にすまない。そう言って彼は出ていった。幸い私たちには子供はいなかった。女がいる様子でもなかった。 彼は金星まんじゅう屋の二代目だった。地球で金星ブームが起きた…

【小説】嫌なことを予期する

何が起きても悲しまないためにはあらゆる嫌なことを予期しておくことが有用である。(逆に良い方向への勝手な思い込みを注意深く排除すること。)この仮説にしたがって、私はあらゆることを予期しながら過ごしている。階段から落ちて骨折、入院し、楽しみにし…

【小説】カートを引く女

夜になると外の道から、カラカラ、カラカラ、音がする。侍女が言う。これは女がカートを引いている音だ。女はカートの中身を捨てる場所を探して、延々さまよっている。孤独な女だ。 なるほど、よくわかる。こういうことだろう。人と上手くやっていけないくせ…

【小説】ぶよぶよの悲しみ

シェルターの外には万年雨が降っている。触れると有害な物質を含んでいるので、私たちは普通、シェルターの外に出ることはない。隣の部屋の子が出ていったのは半年ほど前だったか。私たちはシェルターの生き残りの最後の二人だった。私はもうその子のこと、…

【小説】最後の退屈

一日のほとんどの時間を、編み物をして過ごします。目を数えていると、他のことを考えずにすむからです。退屈や憂鬱に沈んでしまいそうなときも、一目、二目、私の頭は数えることだけでいっぱいになります。シェルターの中には同じ作りの部屋が横にずらりと…