【小説】最後の退屈

一日のほとんどの時間を、編み物をして過ごします。目を数えていると、他のことを考えずにすむからです。退屈や憂鬱に沈んでしまいそうなときも、一目、二目、私の頭は数えることだけでいっぱいになります。
シェルターの中には同じ作りの部屋が横にずらりと並んでいます。昔は部屋の数だけ人が住んでいたようです。私が物心ついたころでも、半分の部屋には人がいました。今はこのシェルターに暮らしているのは私だけです。
部屋の中にはトイレやお風呂や洗面台、衣装ケースや机や椅子があります。机の上には高速電子ペーパーの画面もあり、昔の人が残した本も読めます。私は机に向かって編み物をします。
自動機械が夕食を持ってきてくれました。シェルターにはたくさんの自動機械が居ます。私一人に対してはちょっと多すぎるくらいです。食事や衣服を作ったり、建物の修繕をしたりします。
昔はこういう、自動機械のやるような仕事もみんな人間がやっていたそうです。食事を作ったり、服を洗ったり、電気や水が流れる仕組みを維持したり。
昔はたくさんの人間がいました。祖母が生まれた頃は、一年に百人もの人間が生まれていたそうです。もっとずっと昔は、人間の半分以上が子供を生んでいたそうです。その頃はまだ人間は、道具を作ったり火を使い始めた頃だった…あれ、違ったかな。とにかく、今の人間は理性が発達していますが、昔は本能の方が優位だったということなのでしょう。そして、今の人間は、人間らしい優しさを持っている。
同じシェルターに住んでいた人たちのほとんどは死んでしまいました。最後に残っていた隣の子とはずっと一緒の仲良しでしたが、喧嘩をして出ていってしまいました。他のシェルターはずっとずっと遠くにあるので、もう二度と会えません。
私はもう悲しみません。何も期待していないからです。そして人類最後の退屈は、もうすぐ正しく閉じられるでしょう。