【小説】人事異動の季節

仲の良いクラスメイトが遠くへ行ってしまったといって、下の子が落ち込んでいた。
異動の季節である。周りのメンバーは毎年のように変わっていく。この子はどうしてこれくらいのことで落ち込むのだろう。去年は隣のおばさんが異動になったし、一昨年はお祖父ちゃんとお向いの赤ちゃんが異動になった。
お母さんは、お姉ちゃんが異動になったとき悲しくなかったの?
勿論、悲しくないことはなかったが、そんなことでいちいち影響を受けていては生活がままならない。異動はごく頻繁にあるのだ。上の子は一度異動で変わっているが下の子が生まれる前だった。不思議な感性の下の子の今後が心配になった。
 
私が五歳の時の母親の異動が、私の経験した初めての大きな異動だった。旧任の母は掃除が上手く、新任の母は料理が得意だった。中学の時、兄が異動になった。旧任の兄はいつも私をからかった。新任の兄は将棋にはまってそればかりやっていた。
結婚して五年ほどの間に夫が二度異動した。最初の夫はお金持ちだった。次の夫は顔が良くて、三番目の今のはどちらも中くらいである。上の子もその後一度異動があった。今の上の子はこれまでで一番要領が良い。下の子は偶然一度も異動のないまま独立して出て行った。
今年の異動の時期、夫が身支度を始めたので、異動なの、と問うたが、今回は異動ではなく退職であるらしい。送別会をして、お疲れ様を言って別れた。このポストにはもう後任は来ない。少し寂しかった。
数年後、私にも退職の時が来た。私も身支度をして、舞台を後にした。まだ家にいた要領の良い上の子が見送ってくれた。