年賀状赤子現れ猫消えて
冬支度まちの全部が滲んでいる
晩秋の地上の永い微睡みよ
鰯らは皆重力を腹で指し
退屈な夏の初日のスーパーよ
優しさを欲せば夏の終かな
編み針の冷たき梅雨を独りずつ
涼風や遠い昔はエキゾチック
雲丹の火に染めたい仮面神の塔
蝶ひとの肩に来ていて何もなし
ささやかな物欲を持ち夏に入る
蝶生まるほどの哀しき景色かな
蝶生まる昨日は生きていなかった
はんぶんこしても減らない日永かな
スポイトに吸わす泪の春の果
春の風邪ひいて時間の檻の中
落葉雨掻き分けてバス進みけり
介護者の真顔の写真桜まじ
もういない父に飼われていた金魚
頷きの過剰な聞き手花は葉に
左にも右にも躑躅ありて酔う
繕いて木の葉髪なお美しき
クリスマスイブの雑沓に踏み込む
羽ばたきに重きを背負い帰る鳥
話す人無く初冬の通過待ち
鯊全て悪いのに鯊笑いたる
蚊のごとき命飛びたり叩きけり
風邪ふたり居て寂しさの満たされず
鶏頭が有るまたは無い幸せよ
恋や皆アザミはドライフラワーに
羽抜鳥羽のあるときより軽い
さよならの毎に近づくお花畑
皆外へ消えて目高の居ぬ視界
心身症夢の底では跳ねたがる
連雀は働かなくて良いと云う
遊園地の迷子でいっぱいの地球
ごみ屋敷に住まう男の端居かな
夏風邪をひきボロ切れのように寝る
向日葵や「折らないでください」と札
ハーブティー熱く厨の風涼し
空っぽに堪え冷房の中に居る
避暑の人と繋がる為の電力よ
坂道をトラック曲がる揺れる初夏