水に溶け消え入る砂糖春愁
誰からも好かれず好かず蝿生まる
春愁を見知らぬ街で死ぬ話
同じ色のドロップ二つ遠蛙
立春に次会うと決め別れけり
ぶらんこの子の永すぎる未来かな
春灯し頼みし胸の薄さかな
彼岸餅大人ばかりの家となる
懐かしき肉屋はなくて春なかば
筍を切る各の母らしさ
春眠の頬に人肌ほどの熱
茶摘時午後には昏き部屋の隅
三月の果やゼノンの亀歩む
憂き人の部屋の水道水温む
河童忌や明るき生と明るき死と
花散るや花散るほどの時を経て
春泥や離れの引戸閉めぬまま
夕霞時の継ぎ目を隠しけり
春暁のパン焼く匂淡淡と
晩秋の叶わぬ夢を埋める穴
飛んで跳ね走りて子らの花疲れ
啓蟄や使わぬ臓器生まれ持ち
蜘蛛の子の小さき排水溝に入る
遠蛙風呂場の窓の外は闇
凹凸の多き生き物春田打
真っ当な幸せ蛸の骨に似て
日盛りやツルハシ置きて雪隠へ
どの草もまっさらになれ野分吹く
フラミンゴの赤さや君に秋暮るる
夜長し木綿絨毯窒息す
宵闇の弁当くるむレジ袋
立春のトイレ掃除をする虚勢
親しげに行き交う未来夜永し
地下階行きエレベーターや夜長し
鵙猛る青い表紙の本の裏
無花果や画面の中はいつも夜
三脚の秋の地球に降り立ちぬ
通勤の風邪の現のバスに乗る
紫陽花の昨日の色を忘れけり
冬めきて夫はゲームを一心に
去年今年宇宙死んだり生まれたり
チェダーチーズに因する頭痛春寒し
夢の中から秋の飛行機雲伸びる
散紅葉ふわりと降りることの善し
栃の餅のこりひとつをたべますよ
猫白し色なき風の中に居り
生命力で冬木と競い負けるだろう
彼は冬は本当のことしか言わない
凩のどこかに君が居てさびしい
鴛鴦の何羽居るとて寂しかり
冬の夜の溢しし油足に落つ
鯛焼きをはさみて会議再開す
実南天この一枝を偏愛す
寒鯉の跳ねて眠れぬ夜となる
抱かれて頬に触れたる銀狐
夕時雨米屋の幟濡れそぼつ
喉に針あるぎざぎざの兎汁
初夢や茨のトゲを折りて捨つ
国道の蟻は自由を持て余す
成人の日の靴ひもが結べぬよ
なわとびの音剥き出しの高架下
手袋のままにガラスの花器に触る
象色の鉢のスイセンテタテータ
土竜打時代時代の子どもかな
猫の子の相対的に居る窓辺
蝶百羽居る町ありて平和かな
葉牡丹のあわれ抱きしめれば潰れ
裁屑をさらえて沖にクジラ消ゆ
風花の昼に倒れて先生は
乱れ散る臀部の表皮花野中
夏服の縫う吾に母は根気良く
残業の母や冷めたる蒸鰈
卒業の最後の敵は母なりし
朧夜のジョギング母のうしろかげ