【俳句】2009年~2011年

水に溶け消え入る砂糖春愁
誰からも好かれず好かず蝿生まる
春愁を見知らぬ街で死ぬ話
同じ色のドロップ二つ遠蛙
立春に次会うと決め別れけり
ぶらんこの子の永すぎる未来かな
春灯し頼みし胸の薄さかな
彼岸餅大人ばかりの家となる
懐かしき肉屋はなくて春なかば
筍を切る各の母らしさ
春眠の頬に人肌ほどの熱
茶摘時午後には昏き部屋の隅
三月の果やゼノンの亀歩む
憂き人の部屋の水道水温む
河童忌や明るき生と明るき死と
花散るや花散るほどの時を経て
春泥や離れの引戸閉めぬまま
夕霞時の継ぎ目を隠しけり
春暁のパン焼く匂淡淡と
晩秋の叶わぬ夢を埋める穴
飛んで跳ね走りて子らの花疲れ
啓蟄や使わぬ臓器生まれ持ち
蜘蛛の子の小さき排水溝に入る
遠蛙風呂場の窓の外は闇
凹凸の多き生き物春田打
真っ当な幸せ蛸の骨に似て
日盛りやツルハシ置きて雪隠へ
どの草もまっさらになれ野分吹く
フラミンゴの赤さや君に秋暮るる
夜長し木綿絨毯窒息す
宵闇の弁当くるむレジ袋
立春のトイレ掃除をする虚勢
親しげに行き交う未来夜永し
地下階行きエレベーターや夜長し
鵙猛る青い表紙の本の裏
無花果や画面の中はいつも夜
三脚の秋の地球に降り立ちぬ
通勤の風邪の現のバスに乗る
紫陽花の昨日の色を忘れけり
冬めきて夫はゲームを一心に
去年今年宇宙死んだり生まれたり
チェダーチーズに因する頭痛春寒し
夢の中から秋の飛行機雲伸びる
散紅葉ふわりと降りることの善し
栃の餅のこりひとつをたべますよ
猫白し色なき風の中に居り
生命力で冬木と競い負けるだろう
彼は冬は本当のことしか言わない
凩のどこかに君が居てさびしい
鴛鴦の何羽居るとて寂しかり
冬の夜の溢しし油足に落つ
鯛焼きをはさみて会議再開す
南天この一枝を偏愛す
寒鯉の跳ねて眠れぬ夜となる
抱かれて頬に触れたる銀狐
夕時雨米屋の幟濡れそぼつ
喉に針あるぎざぎざの兎汁
初夢や茨のトゲを折りて捨つ
国道の蟻は自由を持て余す
成人の日の靴ひもが結べぬよ
なわとびの音剥き出しの高架下
手袋のままにガラスの花器に触る
象色の鉢のスイセンテタテータ
土竜打時代時代の子どもかな
猫の子の相対的に居る窓辺
蝶百羽居る町ありて平和かな
葉牡丹のあわれ抱きしめれば潰れ
裁屑をさらえて沖にクジラ消ゆ
風花の昼に倒れて先生は
乱れ散る臀部の表皮花野中
夏服の縫う吾に母は根気良く
残業の母や冷めたる蒸鰈
卒業の最後の敵は母なりし
朧夜のジョギング母のうしろかげ