【小説】幸運の所有権

「転生するにあたり、あなたには女神の授けし幸運として、勇者級に健康で丈夫な肉体を与えましょう。さあ、行くのです!」

そう言って送り出され、俺は流行りの異世界転生を遂げた。

女神のくれた体は本当に丈夫だった。ここで生まれ直してからはいくら食べても胃腸を壊すことはなく、長じてからも二日酔い、肩こり頭痛、腰痛膝痛にもまったく縁がない。真冬に半袖でも風邪もひかないし毎日快眠快便。理想の体だった。

そうこうして毎日快適に暮らしていると、年の暮に城から役人がやってきた。税を取り立てに来たという。

「俺は稼ぎは少ないんだが、いくらになる?」

「…? 稼ぎに税などかかりません。あなたがご自分の努力で手に入れたものですからね。ご存知でしょうが、税は“幸運に対して”かかります。あなたは親の遺産は受け継いでいないようなので、金銭の税はかかりません。あなたにかかるのはその超健康な体、その膨大な幸運に対する税です」

そう言って役人は俺の腎臓を一つ持っていった。

ある年にまた役人はやってきた。小さな子供とその子を抱いた親を連れてきていた。子供は青い顔でぐったりしていた。役人は言った。

「あなたはもう二十年ほど生きましたね」

実際俺がこの世界に来てからそれくらい経っていた。

「この子供は病気で、このままでは数ヶ月もたず死んでしまいます。あなたは運を多く与えられているのでこの子に分ける義務があります。運の再分配ですね。ということで、あなたの残りの臓器をこの子に譲っていただくことになります。もちろんこの子も二十年まで生きた後は必要があれば他の者に運を譲ることになります」

そして役人は俺の残りの臓器を抜き取った。おそらく空っぽになった俺の死体も持って行って処分しただろう。