【小説】感謝が出来ない人

地球から転任して参りました。分からないことだらけですので色々とご教授ください。本日からよろしくお願いします。

 

頭を上げると貼り紙が目に入った。

心に安らぎをもたらす今月の言葉、感謝の気持ちを示せないような人を大事にしなくていいんだよ。

 

そして一通りの拍手と清潔な笑顔に迎えられた。

 

その日の仕事を渡された。一日働き、夜になった。どうも午後あたりから周りがこちらを見てひそひそ話しているようだった。隣の席の社員に、何かまずいことをしたかと尋ねてみた。

今日のあなたの分の仕事は、予め少なく配分されていたの。初めてだから時間がかかるだろうって。あなた、そのお礼を言ってないでしょう?今からでも許してくれるわ、最初だから。

私は慌てて言った。

あ、皆さん、ありがとうございます。

 

帰宅しようと下足箱をあけた。小さな黒い箱が置いてあった。入っていたのは腐りかけの果実に見えた。ぶどうのようだが見たことの無いものだ。どうも食べられそうではない。

隣に来た先輩が言った。

よかったわね。明日ちゃんと社長にお礼言っとくのよ。

これが何なのかはわからなかったが、社長にお礼、とすぐに手のひらにメモした。

 

翌朝、社長は席にいなかった。

先輩に聞くと、今日はずっと外に出ているということだった。

遅くまで待ってみたが帰ってこなかった。

 

その翌日、出社して挨拶した私を皆は無視した。隣の席の社員に、どうしたのかとしつこく聞くとその人は舌打ちしつつ答えた。

感謝が出来ない人と関わる必要などない。

昨日は社長がいなかったから。私は言った。仕方がないではないか。

どんな理由があろうと、あなたが感謝しなかったことに変わりはない。どんくさかったにしても、運が悪かったにしても。その人は答えた。

そうか、感謝は大切なのだな。私はろくでなしだ。どんくさかったにしても、運が悪かったにしても。