【小説】いつも人は一日で消える

恋愛成就で有名なまじない師の所へ行った。同じ職場の片想いの人の写真を見せると、まじない師は言った。

「この男性が貴女を好きになるようにまじないをかけました。ついでにデートの約束も取り付けました。今週の土曜日の13時に駅前の公園へ行きなさい」

私は言う通り公園へ行った。まだ半信半疑だったがそこには片想いの…否、片想いだった彼が待っていた。彼は私の服を褒めた。一日たっぷりデートを楽しんだ。彼も楽しそうにはしゃいでいた。帰り際、彼は、これからもずっとそばにいてほしいと言った。

人の心はこんなにも舞い上がることがあるものなのか。嬉しくて嬉しくて眠れなかった。

翌日、彼にメッセージを送った。昨日はありがとう、楽しかったと。なぜか返信が来ない。端末の具合が悪いのだろうか?

週明け、朝、職場で彼に挨拶する。おはようございますと返す彼は素っ気なかった。照れているのだろうか。

昼休み、人目の無いのを見計らって彼に話しかけた。今度いつデートできるかな。彼は怪訝な顔をし、何かもごもご言い繕って去っていった。職場で話しかけられるのは嫌なのだろうか。でも大丈夫。先日の優しい彼を思い出せば。彼は私のことをとても想ってくれている。安心していい。

その状態が数週間続いた。彼が私をちゃんと好きなのはわかっていた。それでもしびれを切らした私は彼のデスクの引き出しにこっそりメモを挟んだ。また土曜日にあの公園で待ってます。

土曜日、私は待った。彼はいつまでたっても来なかった。

翌週、職場では私がストーカーであると噂がたっていた。

さすがにおかしいと思ってまじない師を問い詰めた。すると白状した。自分は彼にまじないをかけたのではない。彼にそっくりで貴女を好きな、一日だけ動く木偶人形を作ったのだと。その人形を公園に向かわせた。まじない師はそう言った。

私はその場にくずおれた。彼は私を好きではなかった。誰も私を好きではなかった。嘘の時間に、私は喜んで、振り回されて、一人で踊っていた。私が信じていた「現実」はどこへ行ったのか。私の想いはどこへ行けばいいのか。