【小説】まものの子の独白

狩りができるひとたちはみんな本当にすごいと思う。尊敬する。狩りは難しいし大変だ。気持ちも体も大変疲れる。ぼくは狩りに成功したことがないから本当には分からないけれど、しようとしただけでもくたくたで動けなくなってしまうからきっとそうだと思う。頑張って狩りをして自分の食べ物をとって生きているひとたちが、ぼくみたいな者に腹が立つのも当然だと思う。ぼくには尊厳がないと軽蔑するのももっともだと思う。

ぼくは狩りができないので、お腹をすかせて死んでしまうか、尊厳のない恥ずかしいまものとして生きるしかなかった。死ぬのはとても怖かったので、ぼくは恥ずかしいまものとして生きている。お母さんを食べたあと、ぼくはまたたべものが無くなったので死んでしまうかと思った。でもあるひとがぼくにごはんをくれると言った。お腹がすいていたし、ぼくはそのごはんをもらった。そのひとはそれからぼくを自分の巣に住まわせてくれていつもぼくにごはんをくれた。おかげでぼくは生きている。このひとがいなくなったらぼくはまたお腹がすいて死んでしまうだろう。

狩りができるひとたちは言う。そんなのは依存だ。頼りきりだ、と。自分で狩りをしてごはんを得ないのは尊厳がないと。だけどもぼくは狩りができない。このひとにごはんをもらわなければ死んでしまう。もしぼくがみんなの言う尊厳を大事だと思っていたら今すぐこの優しいひとの巣を出てお腹がすいて死ぬのが正しいのかもしれない。でも実際にはぼくは死ぬのがこわい。ぼくはいつかこのひとを失えば死ぬだろう。でも今はこのひとがいる。今死ななくってもいい。そう思っている。