【小説】怒号

戦争が始まったので隣の部屋に避難する。頭にクッションを乗せ、机の下に入る。

隣からは爆音と怒号が響いてくる。

ごぼがががぐがばばばぐがるら。ぐがががらぎりりがぐが。

は?この○○が!□□□!△△!

声は一人分のものだけ聞こえてくるように思える。だんだん高くなり、しばらくおさまったかと思うとまた唐突に鳴り響く。低い声。足元が揺れる。

あまりの恐ろしさに震える度、自分を守る何かが剥がれ落ちて一回り小さくなるような気がする。

 

かつて自分が戦場に赴いていた頃を思い出す。可愛らしい姿に身を包んだ人々、様々な武器、色とりどりに染められていくステージ。

引き金を引く度、照準を覗く視界が大きく揺れて頭が痛かった。それでも始めは嫌ではなかったはずだ。否、楽しいとさえ思えた気がする。どんくさいなりに精一杯撃った。しかし前から弾が来て、横からも来て、追い詰められて動けなくなった。上官の怒鳴り声が耳元で響いた。どうして真面目にやらないのか。

そうか、人々は今の状況を当たり前に打開できるのだ。まさかそれができないほどどんくさい者がいるとは想像もできないのだ。だからやる気がないと思われることにならざるをえないのだ。すっかり不真面目だと決められてしまった私は、それから何度も怒鳴られた。怒鳴られる度にますます恐怖で頭は回らなくなり、最後には固まったようにただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

隣室で音が高く鳴る。机の下で飛び上がるほどおののく。上官の声が脳裏によみがえる。それを繰り返す。どれほどそうしていただろう。

音がほんの一瞬弱まったとき、ふと窓の外に虫の声がするのに気付いた。隣の部屋から一番離れた窓。そこから外へ出た。声はこちらへ逃げてくるように呼んでいた。草の中を歩き続けた。戦争は終わらない。しかし世界の終わりにたどり着くことを夢見て、歩き続ける。