【小説】神話 子生みのはじまり

昔々、まだ神様がこの地上を見守っていてくださった頃。

地上に生じる生き物は、一個体一個体、すべて神様が直接お造りになっていました。

その頃の地上はまだ平和そのもので、ただの一人も、ただ一つの苦痛も感じずに暮らすことができました。だから神様は地上に新たな個体を造るのでした。

 

あるとき、神様はご多忙になり、地上を見守ることができなくなってしまいました。そのときの地上はもう平和ではなくなり、生き物がいたらたくさんの苦痛を感じるようになってしまっておりました。神様はすでに新しい個体を造るのをやめており、地上には生き物が一人も、一匹もいない状態でした。今の地上に新しい個体を造れば苦しむことがわかっていながら、それを造るなど、神様には当然できませんでした。

自分はもう地上を見守り続けることはできないが、いつか地上がまた平和になったとき、新しい個体を造る役目を置いておきたい。そう思って神様は「子生み」をお造りになりました。子生みは神様ではないけれど、神様の代わりに新しい個体を造ることができました。子生みの造った新しい個体も、また子生みになるようになっていました。

「今地上はこんな状態だけれど、またいつか平和になり、苦痛が生じなくなれば、おまえがここに新しい個体を造っておやりなさい」

神様はこう言って、子生みを天井に残し、ここを発ちました。

 

時がたち、神様はあるとき通りがかりに地上に立ち寄りました。地上はまだ平和になっておらず苦痛に満ちていました。なのにどうしたことでしょう、生き物が満ちあふれているのです。

神様は驚いて最初の子生みに尋ねました。どうしてこんなことになったのかと。どうして苦痛のある地上に新しい個体を造ったのかと。最初の子生みが答えた理由はこうでした。

小さい子が好きで育ててみたかった。子供は自分だけを愛してくれそうだから。自信がつく。子を持って初めて一人前。自分の血筋を残したかった。などなど。

神様は深く後悔しました。一生物である子生みには、新しい個体の幸不幸に考えを向けることは難しかったのです。

しかしもう遅いのです。地上は、自分のことを考えるので精一杯な、子生み、子生み、子生みで溢れてしまっているのでした。