【小説】千手さまの創世譚

千手さまはその有り余るエネルギーで、本来の仕事、すなわち生業やお家のことやご自身のことを完璧以上にこなしていらっしゃいました。
まだ余るエネルギーは素晴らしい余暇の為に使われました。そして慈悲深いことに、その一部を使って、この宇宙を作ってくださったのでした。

【俳句】2018年1月23日~3月30日

かつてこの星に菜の花摘める女児
春来るパノラマ島の廃墟かな
真っ暗なところへ消えた引鶴よ
バスの屋根に乗せる架空の麦鶉
人の塵或は花粉積層す
春昼の地球に置いていかれたる
まだ生まれたくない子にも春来る
蝶生まる今日も天気がよく寂しい
風呂桶を黒く満たして髪洗う
学校を嫌いと言いし子の卒業
ミサンガの黒は死の色雲雀東風
仲間ほしくて飛ばしいる花粉かな
完全な雨の中なり三月来
三月を寝込んだ人の安否かな
化粧箱開けて手術に似る春陰
熊穴を出る千年の後想う
とこしえは無しやと怒る海豹よ
好きだったものの残骸烏貝
所在なく住処聞き合う雨水かな
鶯やそこそこ旨いエビピラフ
初音して未だ縫われぬ布の束
末の子を嫁に出す戸の椿かな
春ショール出しニヤニヤし戻しけり
菜の花の辛くないやつが食べたい
春浅き三階空を庭とする
一人汝はラーメンに海苔五枚乗せ
残雪のスライムほどのHP
春来る鱗はやわらかく壊れ
朝寒をみださぬように車輪過ぐ
布団から出るために要る片栗粉
ポクポクと糞するうぐいすが犯人
朝焼の色のクラシックな恐竜
梅に鶯バス運転手声無骨
溶けかけてプラスティックな雪である
雪白し土を含めばやや親し
七日目の雪優しさとして残る
動くものあれば命や冬館
終ること知ってる春のはじまりに
眩しさが増してパフエと冬の終り
冬は無言で諭してきて困る

【小説】へびぃ

宇宙からもたらされた新生物へびぃは瞬く間に地球で驚異的人気を博した。可愛いへびぃの姿が見られるへびぃ園が乱立し、それを見に行くだけで飽きたらない人たちが家庭でのへびぃの飼育を始めた。へびぃの寿命は二十五年ほど。最初の十年ほどがもっとも可愛いが、それを過ぎてもまた別の味がある。へびぃの飼育は、一般人に不可能ということはないが、時間もお金も膨大にかかり、始めればほぼそれに人生を費やすことになる。それでもへびぃを飼育する者はあとをたたず、百年ほどでほとんどすべての世帯が飼育するのが当たり前となった。一世帯当たりの飼育数には変動があり、六体、七体が当然だった時期もあるが、経済的影響や一体一体への目のかけ方に対する価値観などが変わり、今はピークを過ぎて減ってきている。
とは言え、驚異のへびぃブームはもう千年以上続いている。この人気が止まる気配は全くない。
 
最近の週刊誌にはこんな記事までが載っている。
 
へびぃを飼わない若者増加!
 理由トップ5
1、金銭的理由
2、人だけの生活を楽しみたい
3、気楽でいたい
4、世話が大変
5、野生の方が幸せ
 専門家の声
現在では価値観は多様化され、このような人たちがいることも考えられなくはありません。しかし、へびぃの可愛さを前に育てるという選択を簡単に捨ててしまう、そういう感性の人が増えているというのは、一つの時代の危機ではないでしょうか。これは社会が正常さを失っている合図です。それが若者の心に現れているのでしょう。
 
 
ところで、斯く言う私は極少数派のへびぃ不飼育主義者である。近々予定している飼育主義者へのインタビューの質問は以下の通りである。
 
・へびぃはへびぃ園をはじめ、町中に溢れている。なぜわざわざ飼うのか
・芸術やスポーツや食や様々な娯楽や人どおしの交流。夢中になれることはたくさんあるのに、なぜへびぃなのか
・へびぃを飼うのは難しい。苦痛を与えずに育てられると思ったのはなぜか
 
否、先の週刊誌のようにこう聞けばよい。
 
・なぜへびぃを飼うのか
 
 
 

【小説】奴隷召喚

一組の男女が魔方陣に手をかざしている。魔方陣はやがて妖しい光を放ち、一人の人間がそこに姿を現した。彼は元の世界で何の起伏もない真っ平らな幸せ過ごしていたところを何の理由もなく突如としてここに連れてこられた。これは奴隷を召喚する儀式なのである。奴隷はここのひどい環境の中でたった一人で生活できるようになるまで、召喚者の命令に逆らうことはできない。その後も何十年もこの世界に拘束されるのである。

【小説】不幸の原因

僕は不幸だ。長く一緒に住んでいた恋人が浮気相手の子を身籠って出ていってしまったのである。僕は不幸の原因である彼女を恨み続けている。
 
私は不幸だ。遊びで付き合っていた人に妊娠させられて不本意な結婚をし、不本意な子育てをしている。私は夫を恨み続けている。
 
俺は不幸だ。お互い意識が低く望まない妊娠をしてしまったが、全部俺のせいにされた。こんな女だと思わなかった。仕方なく結婚したが、毎日不満ばかり聞かされる。俺は妻を恨み続けている。
 
わたしは不幸だ。この世に生まれてきてしまった。パパとママはけんかばかりしているし、友達もわたしを仲間はずれにする。何もいいことはない。かといって死ぬのもこわい。わたしは両親を恨み続けている。
 
どうしようもないことを振り返ってもしょうがない。彼らに対してそう思っていました。恨めば幸福が戻ってくるわけではない。どうして意味のない考えを持ち続けるのか。
しかし私も、あるとき意味のない恨みに取り付かれてしまったのです。これは消えてくれるまで持病のようになだめすかして付き合うしかないとわかりました。
痛みと同じで、自ら生じさせているわけではないのです。それがもたげてくる要因を遠ざけること。アレルギーと同じです。あとは待つしかないのです。

【小説】悲しい眠り姫

昔々ある国に、一人のメンヘラ女がおりました。この国の王さまがこの女の色気に嵌まってしまい、周囲の反対を押しきってこの女を妻に迎えてしまいました。

王さまの周りの者たちは、跡継ぎは別の者に生ませて、どうか二人の間に子供だけは作らないようにと釘を刺しておりました。メンヘラの子供ほど可哀想なものはないからです。王さまと女王さまは、しぶしぶ承知しておりました。

しかし、まもなく女王さまは御懐妊なさってしまいました。周りの者に二人は謝って言いました。「ついうっかり。」

お姫様誕生のお祝いにたくさんの人が集まりました。お姫様がお生まれになったことに、お祝いの言葉を述べないわけにはいきません。皆棒読みでお祝いを述べましたが、心の中は一様に絶望的な悲観でいっぱいで、うつむいて暗い顔を隠していました。

お姫様は生まれた瞬間から女王さまからのの精神的虐待を受けていたので、赤子にして既にメンヘラの仲間入りをしていました。

あまりに酷い状況を見かねた魔女が、お姫様に薬を処方してあげました。この薬のおかげでぼうっとなって、ひどい悲しみや苛立ちや執着や憂鬱の感情が薄まり、自分や他人を傷つけたりしなくなるのです。お姫様はすでにかなりきつい薬が必要な状態でした。ひどい状態をおさめるためには、覚醒度を低下させて、ほとんど夢うつつの状態に持っていくしかありませんでした。また、女王さまはもちろん、王さまをはじめ周りの者も女王さまの言動に疲れはてて心を病んでおりましたので、同じように薬を処方してあげました。

かくしてこの城は手入れする者がいなくなった茨や蔦に覆われ、眠りの城となったのでした。

国民たちはこの城の地獄が最早これ以上猛威をふるわないことを知り、魔女にたいへん感謝し、自治を始めたのでした。

時がたち、事情を知らない外の者が観光気分でこの城を訪れました。そしてベッドに横たわり惚けたようにうわ言を喋り続けるお姫様の色気にやられて、手込めにしてしまいました。ラリったお姫様ものりのりで相手になりました。

そうして二人の間には三人目の不幸な悪魔が生まれ、この国の地獄は続きましたとさ。

【小説】恐ろしい世界

爆発物を使った危険な遊戯。多くの人がのめり込む。安全装置が存在するのに、死亡事故が頻発する。事故を起こした者になぜ安全装置をかけなかったか聞くと、ついつい、面倒だったからと答えが返ってくる。そうしてそれを聞いた者も、多くの場合、そんなものだと思う。

そんな恐ろしい世界である。