【小説】続・マイクロバイオーム

【小説】マイクロバイオーム - 惹句と豆喰い

↑ここからの続き。

 

そして俺と菌たちの生活が始まった。
俺はもう独りではなかった。この部屋は自分一人の世界ではなく俺と菌たちの世界になった。
いつしか俺は部屋の外へ、家の外へ出られるようになっていた。
他人は相変わらず怖い。けれど俺は常に菌たちと一緒だ。他人に対峙していてもそれは俺だけではなく、俺と菌たちなのだった。
他人と接するのが苦しいばかりだったのが、必ずしもそうでないときさえあった。一瞬楽しいと思えるときさえあった。
菌たちのおかげだ。彼女たちが一緒にいてくれるおかげだ。

しかしやはり苦しいときもあった。部屋を出て外の世界の中にいるのだから当然だろう。そんなとき俺は自分を傷つける癖があった。

あるとき、これもそんな日だった。外の世界につまずき、自ら傷つかずにはいられない。そんなときだった。
俺は、あろうことが下剤を飲んでいた。彼女たちの断末魔の叫びじみたものが、便所の排水音に混じって聞こえた。
俺は、彼女たちを殺してしまったのだ。
意味のある言葉も、俺への非難も、何も言わせないまま、俺は彼女たちを下水へ吐き捨てたのだ。

彼女たちーーー否、もう俺になっていた。あまりに一緒に居すぎた。近すぎた。もう俺自身と、否今の俺自身全体が一体になってしまっていた。だからこうできた。俺は俺自身の一部を傷つけ、吐き捨てただけだった。そう気付いた。
俺と彼女たちではない。俺。そう、俺はまたすでに独りになってしまっていた。

部屋の外の世界に取り残されていることに気付き、立ちすくんだ。
腹の中にまた生じ始めた菌が俺を呼ぶ。否、それは独り言だった。近すぎる。そして俺と菌たち、すなわち俺はまた独りぼっちになった。