【小説】千手さん

彼は恋人にもっとかまってほしいと言われていました。しかし一本の手で仕事をし、一本の手で家の用事をすれば、もう恋人のために割ける手は残っていませんでした。同じような不満を友達からもたくさん聞いていました。
彼は星に願いました。恋人のために使えるように手を増やしてください。
翌朝目が覚めると彼には千本の手が生えていました。これで恋人のために手が使える。彼は喜びました。
仕事に一本、家の用事に一本、そして恋人にメールを打ったり頭を撫でたり肩に回したりするのに一本の手を使いました。それでもまだ997本の手が余っていましたから、同じように恋人が忙しくてかまってもらえない女の子たちのために使いました。一人に一本の手を割り当てて、それぞれにメールを打ったり頭を撫でたり肩に回したりしました。彼の恋人も、女の子たちもたいへん喜びました。
彼はその姿から、千手さんと呼ばれるようになりました。
まだ手が余っていましたから、友達がいない引きこもりの少年や、親が忙しく遊んでもらえない子供、恋人のいない人たちにも手を使うことにしました。千手さんはそれぞれ一本ずつの手で彼らにメールを打ち、頭を撫で、肩に回しました。そして非常に感謝されました。
千手さんは人々を満たし続け、人々は千手さんのおかげで幸せであり続けたのでした。