【小説】ペン回しの思い出

小学校の頃の一時期、ペン回しにはまっていた。テレビか何かでペン回しの達人のようなお兄さんが出ていて、憧れてやりはじめたのだ。はじめは全く回せなかったが、練習して少しは回せるようになった。嬉しかった。当時仲の良かった友達にペン回しを見せた。その友達は今思えば大袈裟なほど感心して誉めてくれた。調子にのって少しでも上達するごとにその友達に見せた。かなり練習して、同じ場所では十回連続で回せるようになり、指を一回越えて回すことも出来るようになった。一々その友達に見せ、友達は一々丁寧に誉めてくれた。
あるとき授業中ふとその友達を見ると、ペンを回していた。全部の指を連続で越えさせていた。ペンは行きつ戻りつしながら延々と指の周りを回っていた。目はペンの方を見ておらず、ちゃんと授業を聴いていた。よく見ると回しているのは利き手と反対の手で、利き手はノートをとっていた。無意識に回しているというかんじだった。
視線を感じて振り返った友達と一瞬目があった。友達はしまったというように、気まずそうな顔をして、それから困ったような変な笑顔になって目をそらした。
それから僕たちの間でペン回しの話は出なかった。