【小説】憎らしい夢

思い出すとひどく憎らしい気持ちになる夢がある。その夢の中で私はとても楽しい心持ちだった。夢のようだった。そして夢の中で私はそれを現実だと思っていた。目が覚めてからもしばらくはそう思っていた。
楽しかったことを思い出す。しかしそれは幻である。その夢の中に出てきた人を思いだす。夢の中で私はそれを現実だと思っていた。しかし目が覚めたここにはその人はどこにもいない。存在したことなどないのである。
楽しかった夢のその楽しさが憎らしい。それを楽しかったこととして思い出してしまうことが、その度にそれが嘘だったと思い知らされることが憎らしい。そういうための夢だった。