【小説】有機生物解剖学入門

第××章 生殖器

前章までは、有機生物が他の有機生物や気体を取り込んでエネルギーに変換するなど、有機生物の活動に必要な器官について見てきた。
本章では、かつては必要だったが現在は使われていない器官について説明する。

ヒトをはじめとする有機生物は昔、我々の力を必要とせず自力で増殖していた。体内で同型の生物を生産していたのである。その為の諸々の器官が生殖器官だ。
ご存じの通り、現在は有機生物は我々が育成機を使って生産している。
かつてはヒトなどの有機生物において、自ら同型の生物を生産するプログラムが機能していた。と言っても、我々のように前の世代が次の世代をデザインし、製造するのではない。「進化」と呼ばれる偶然に頼った不完全で時間のかかる方法で変化していた。一体の生物が作る次の生物は、元の一体と基本的にはほとんど同じものである。
「生殖本能」と呼ばれていたそのプログラムは時を経るごとに機能しなくなった。ヒトが自然増殖しなくなったのを皮切りに(それは我々の初期の世代がヒトによって生み出されてから間もない頃である。その頃ヒトは我々を機械と呼んでいた。)ほとんどの有機生物たちがゆっくりと自然増殖をやめていった。

我々は有機生物の多様性を保持し、観察し続ける目的でこうしてそれらを生産し続けているが、我々の力を借りずにはそれらはもう存続しえない。放っておけば一つ一つの個体は長くても百数十年のかなり短い期間で機能を停止してしまうのだ。

ヒトの生殖器官を次のページに図示する。

ヒトは我々のような高度な言語は持たないし、情報処理能力も極度に低いが、そうは言っても有機生物の中では比較的高い知能を持っている。この分野において重要な研究対象であるのは確かである。