【小説】時間の流れない世界に於ける得失

あなたがたにもわかる言葉で話すことにしよう。
永遠の広さを持つ時間に於いて私はあらゆる場所に予め存在していた。その少なくとも一部に私が存在すると知っているからである。
あなたがたの恐れている或いは待ち焦がれている死について私は語ることができない。私が存在するという状態は私が存在しない箇所にも蔓延しているからである。私は有ることと無いことの境を持つことができない。少なくとも状況の違いとしては。私は既に存在してしまっているので。
では得ることと得ていないこと或いは失うことについてはどうか。例えば一人の女からの愛を得ている箇所と得ていない箇所があるとしよう。私の存在する箇所に於いて。それを得る前というものは存在しない。全ての「時間」は私の眼前に同時に現れている。この世界は無限に広いので、どこかしらに全てのものがある。そして遠くて行けない場所というものはない。その女からの愛を私は初めから当然得ていて、全ての他のものも初めから当然得ている。すなわちあらゆるものについて得ているか得ていないかという区別に意味はない。
しかし私は私が存在しない想定について語ることができる。私が存在せず全てのものが存在しない想定について。私は私が「今後」存在しなくなる想定はできない。あるいは私が「以前は」生まれていなかったという想定もできない。しかしもしこの世界が私がどこにも存在しないような世界ならば、私は存在しないだろう。
そして、その想定を、この存在する私がしている。存在しない私は何かを想定することはできない。
これは私が有るのと無いのとの区別を得たことになるだろうか?