【小説】楽になってほしいので

お父さんやお母さんはいつも忙しくてなかなかいっしょにあそべません。
でもそれはぼくのせいかもしれません。
ぼくのごはんやふくやぶんぼうぐを買うのにお金がいるのでお父さんはたくさんはたらかなければなりません。お母さんはぼくのぶんのせんたくやりょうりやそうじをしないといけません。
ぼくはお父さんやお母さんにもっと楽をしてほしいと思います。忙しくなくなればいいと思います。だからぼくはあした、ないしょでおじいちゃんのところへ行きます。そこでくらします。お父さん、お母さん、ありがとう、さようなら。

無理なんてしていない。君の笑顔を見ると疲れなんてどこかへ行ってしまうよ。忙しいのに時間を作るのは君に気を使っているんじゃない。僕自身のためなんだ。
彼はいつもそう言った。でも私と会った後、帰っていく彼はどう見ても余計に疲れているように見えた。特に嘘が下手というわけでもないのだろうが、相当無理をしているのだろう。どうしても隠せないくらいに。
私は彼に別れを切り出した。

母の友達にとても面倒見のいい人がいるのです。僕のような引きこもりを放っておけないような人が。
僕は趣味でイラストを描いていたのですが、それをちょっとした、素人が出す印刷物のカットに使ってもらえるように手配して仲介してくれます。人と関わるのはとても苦手だけれど、社会と繋がっているような気持ちになれることで僕は随分救われました。何も恩返しはできないけれど、どうかその人に幸せに過ごしてほしい。そう思いました。
僕の絵なんかがそんなに求められるわけもないので、大分頑張って営業してまわってくれているのでしょう。僕のようなコミュ障に相手の要望を代弁して伝えるのもかなり苦労があると思います。そうしてその人は始終そういうかんじで、僕以外にも世話をしてあげている人がたくさんいるようです。メールはいつも明るく見せていますが、疲れているのがわかります。それでも世話を焼かずにいられないのでしょう。
それで僕はその人に少しでも楽になってほしくて、絵を描くのをやめました。