【小説】惑星K最高の音楽家

我々の住む惑星Kではーー無論、他の星でもそうであろうがーー音楽は、スポーツの応援のために存在する。

 

この星で私は生まれ、音楽家を志すようになった。父の影響である。父は趣味で音楽をやっていた。

彼はテレビでスポーツの試合を点けて、クラリネットを吹いていた。彼はよく練習したし、音楽をやる人には珍しく応援以外でも鼻唄のようにしばしば楽器を吹いた。楽器をとても大切にし、湿度に気を配りいつも手入れをしていた。

私は父がクラリネットを吹いているのを見るのが好きだった。とても楽しそうだからだ。テレビでスポーツの試合が流れていても、私はそちらには興味を示さず父のクラリネットに耳を傾けていた。決して上手くはなかったが、彼は音楽がとても好きだった。人生を楽しむ方法を私は父から教わったと思っている。

 

そんな父の姿を見て育った私も音楽が大好きになった。私はオーボエを必死で練習した。上手くなって人気の選手やチームを応援したい。それが、良い音楽家の証しだからだ。

最初は温泉宿で卓球を応援した。応援した選手が勝つほどに音楽家は評価される。音楽家にとってそれぞれの競技についての知識の強化は欠かせない。ルールを学ぶのはもちろんのこと、選手のフォームが乱れれば曲調を変えて注意を促す。攻めるべきタイミングには盛り上げる音楽。音楽家には選手と同程度かそれ以上の競技の知識が求められる。

スポーツのルールを全く知らなかった私も、音楽をやるために必要な基礎なので、まずこれを勉強した。

 

この星で人気のスポーツといえばなんといってもベースボールである。一流の楽団だけが一流のチームの応援ができる。

寝る間も惜しむ練習を重ね、私は徐々に音楽家として認められていった。そしてついに、プロのベースボールを応援するようになった。

私はますます音楽の技術を磨くべく練習を重ねた。しかし人気のチームの応援にはなかなか回してもらえない。

どうすればいいかわからなくなっていた私に楽団の先輩が言った。

「君は大事なことを忘れている。技術を磨くのはなんのためだ。試合の戦況に合わせて最適な音楽を即座に繰り出すためだ。音楽は勝ってもらうためにあるんだ。」

私ははっとした。雷に打たれたようだった。それから私は応援するチームのメンバーの得意なことや弱点をくまなく調べ、チームの練習にも顔を出し、オーボエを吹いた。雨の日も炎天下でも。監督とも話し合い、選手のパフォーマンスを最大に引き出す音楽について研究に研究を重ねた。夜にランニングをする選手にくっついて走りながら楽器を吹いて励ました。

 

努力が実り、ついに世界大会決勝戦の応援を任された。

一流の選手と音楽家が集まっている。最高の舞台では選手のバットや靴も最高級の物、私の吹く楽器も当然最高級の物だ。

天気はあいにくで今にも雨が降りそうだった。

両チームの実力は拮抗しており取っては返されのきわどい試合。一点差で相手がリードした状態で九回裏、我がチームの攻撃を迎えた。

ツーアウト満塁。我々の四番が打席に立った。曲はもうすぐ私のソロに差し掛かる。そのときついに雨が降りだし突然嵐になった。我々の四番が打った球がこちらへ飛んでくるのが見える。文句無しの良い当たり。そのとき大きな向かい風がボールを阻もうとした。ソロパート。私は全身全霊を込めてオーボエに息を吹き込んだ。乾燥と湿気の悪状況にさらされ続けていた楽器が酷い音を立てて大破し、この星最高の奏者たちによる美しい音楽は途切れた。しかし、私も誰もそんなことは気にしなかった。ただ勝ってほしい。ただ勝ちたい。私の息が気流を変え、球はそれに乗ってフェンスを越え、楽団の太鼓に突っ込み皮をぶち破った。だが誰も気にしなかった。逆転ホームラン。楽団の皆が楽器を放り投げて私に抱きついてきた。我々は勝利した。

 

そしてついに私は最高の音楽家と言われるようになったのである。