【小説】ロボットを買う

ロボットが心を持つような時代はまだ想像がつかないが、今は見た目や動きとしては人間とほとんど変わらないロボットが普通に出回っている。時代の進歩というのはすごい。まだまだ値は張るが。
女性型のロボットには前から興味があった。休日やることもないし、展示会を覗いてみた。様々なメーカーが自社の新作を展示、アピールしていた。どれも興味深い。様々なタイプがあり、どれもよくできていた。
一つのメーカーが今日で創業三十周年だということで、今日誕生日で三十歳になる人は展示の商品全て半額という半分ふざけたようなキャンペーンをしていた。その張り紙を見て他の人たちと同じように失笑したが、次の瞬間気づいた。私は今日で三十歳になるのだった。祝ってくれる人もいないので忘れていた。元の値段が値段なので半額とはかなりの値引きである。しかしどうせこのメーカーの狭い展示スペースの商品の中にそう上手く気に入ったものもあるまい。こういうのは好みに合わなければ価値がないも同然なのだ。あまり期待せずにそのメーカーの展示ロボットを見た。瞬間、射抜かれたように動けなくなった。驚いた。今まで見たどのロボットよりも、否、どの人間さえ超えて、そのロボットは私の好みだった。一目惚れなどしたことはないが、したならばこんな感覚になるのだろうか。
すぐに買って帰った。もう他の展示など見る気にならなかった。この偶然にとても気分が高揚していた。ずっと嬉しくて足元がふわふわした。

そのロボットの相手ばかりして過ごした。見ていても話していても触れていても、いつまでも飽きなかった。家に置いて出掛けるときは名残惜しく、帰ってきて迎えてくれれば幸せを感じた。
そのロボットがいるだけで毎日が楽しかった。
今の機械はうまくできているもので、ロボットはまるで私に愛情を持っているかのように振る舞った。私が出掛けようとすると寂しそうにした。私が会社の女性と飲んできたりすると拗ねた。それがまた可愛かった。
しかしだんだんそのパターンも面倒になってきた。あまり一々そのようなのである。あるとき急いで出掛けなければならないとき、ロボットが寂しがってすがってきて出られないことがあった。とにかく急いでいたので、とりあえずと思い電源を落とそうとした。しかし操作が効かないのである。まるでロボットの中にそれを拒否する主体が存在するかのような錯覚に陥った。実際は故障だろう。
しかしそんな感覚を持ってしまってから、私は少し怖くなった。一度そう感じてしまうと怖いとしか思えなくなった。このロボットの愛が怖い、とでも言おうか。そんな感覚。
このロボットを手放すことにした。中古ロボット買い取り店に持っていくと、そこそこの値で引き取ってくれた。
私はまた一人に戻った。否、ロボットといても一人は一人だったな。一人はやはり気楽でよい。いつか人間を嫁にもらえるだろうかな。