2018-01-01から1年間の記事一覧

無題

両手にはおさまらないほどの、でもすぐに数え終わるくらいの、あなたに会った時間のそれぞれの始まりと終わりのあなたが手を振る姿がぼやけた体積をもって並んで縮んで伸びていつか終わる。欲しいのはあなたじゃなくてあなたの何かじゃなくて、ことばといつ…

【小説】ボトルレター

つまらないことに手を出して、島流しにされた。 この仮想空間内の無人島は常夏で、食べ物と寒さに困ることはない。その代わり、見渡す限りの海には人の気配は一切無く、外からの情報は何一つ受けとることができない。 このような島が一人一人の受刑者に用意…

【小説】都会のゾンビ

サトコは乗車券を握りしめて特急に乗った。今日は憧れ続けた都会での生活が始まる日だ。 娯楽にあふれ洗練された優雅な生活。幸せな恋と結婚と家庭。都会に行けばそれが手に入る。狭い世界で手に入らなかったものが、都会でなら、自分にだって手に入る。 土…

【小説】生物Nについての研究

生物Nには大きく違う二種類の個体がいる。繁殖型と非繁殖型である。 繁殖型は総じて優秀である。食糧や住処の確保および維持の効率の良さ、同種の生物とのコミュニケーション能力、判断能力、記憶力、行動動機の強さ、運動能力。全てにおいて非繁殖型とは比…

【小説】ニートの人生

人はすべからく働かなければならない。生まれてきた人間は必ず自分を養っていかねばならない。もしそれが出来なければ、生きる権利はない。いつ消されても、消えざるをえなくなっても文句は言えない。 そう、親がいつも言うとおり「働かないと生きていけない…

【小説】千手さまと一人の愚民

僕は周りの皆より、たいていなんでもよくできるみたいだ。躍りで一番高くまで飛び上がれるし、かけっこも一番だ。千手さまにもらうミカンの皮を上手に剥けるし、十より大きい足し算ができるのも、僕しかいない。 そういうところを見ると、皆は僕をすごいと誉…

【小説】三分生命体

少しでも気に入ってもらえているかもと勘違いしたくない。次に期待してしまいたくない。 だから私の友達は皆、寿命が三分しかない。 電気的知能が、人間と同じレベルの反応を返すほどに発達するのとほぼ同時に、人々はそこに人格があると認め、人間と同じ扱…

【小説】猫の気持ち

いつ死んでも構わないと思うこと。それが気ままに生きるコツだ。人間で言えばニートのようなものである。 現在、家猫である私には飼い主がいて、食べ物や玩具の世話をしてくれる。しかしこの状況を当たり前だと思っているわけではない。ただの幸運である、と…

【小説】犬の気持ち

ここの家で暮らして三年になる。 俺は犬であり、飼い犬のおそらくほぼ全ては食糧と住居の供給をその飼い主に依存しているであろうが、本来動物は自ら己の世話をするものだ。その信念を忘れないことが生きるものとしての誇りである。 だらけきったような顔を…

【小説】城主と泥棒

城主は秘密を持つような人間ではなかった。むしろ、人々がなぜどうでもいいことをそんなに秘密にしたがるのか、不思議に思っていた。しかし城主にもただ一つ、絶対に守らねばならない秘密があった。その秘密がこの城を、城主を守っている。 籠城する前(と言…

【小説】無が道理を抜け出せていると願っている

大切なものが減る度、剥がれ落ちる度、私ももうすぐ連れていってもらえるのだと嬉しくなるのである。 空を飛ぶ夢をよく見た。ただし、思いのままに気持ちよくは飛べなかった。必死で手足で空気を漕がないと浮かんでいられなかった。重力は、道理は、相変わら…

【小説】反出生主義への論駁の一端または見えていないものの否定

恋人が死んだ。 嘆き悲しんでいるとタイムマシンが現れ、中から案内人のような人が出てきた。 「時間を遡って別の分岐に入れば、お客様のお連れ様は十分に長生きします。しかしお客様と出会うことはなくなります。何階まで行かれますか」 「結構です」 私は…

【小説】似た人

最愛の妻が事故で死んだと知らせを受けたのは海外の出張先でだった。即死だったそうだ。会いに行くこともできなかった。 田舎に帰ったときに大規模な災害に遭ったらしく、情報は交錯していた。 何を考えることもできなかった。ただ悲しく悔しく、状況を憎み…

【小説】おばけ

私にだけ見えるおばけがいます。 おばけは気持ちの悪い見た目で、ごはんのときなどに出てくると、気持ちが悪くなってごはんを吐き出してしまいます。 でもおばけは私にしか見えないので。みんなは私を変だと言います。ごはんを吐き出すと、怒られます。 夜ベ…

【小説】千手さまは偉大

千手さまは偉大であるなあ。 ええ本当に。 千手さまは私たちの数分の一しかお寝にならないらしい。なんとも、一日の半分しかお寝にならないらしいのだ。 まあ。 それに、私たちは毎日歌って踊ることしかしていないだろう。それだけだと実は死んでしまうらし…

【小説】ねんたぱる

金星に留学して一年。ここの言葉もかなりしゃべれるようになったし、三本箸も上手く使って食べられるようになった。十歩歩くごとに一度スキップを入れる歩き方にも慣れた。友達も増えた。恋人も百人できた。 随分馴染んだものだ。我ながら、こだわりを持たず…

【小説】半減期

永遠に一緒にいられると思っていたわけじゃない。 物も命も星さえも、いつかは消える。 でもその終わりが来るのが、今かと言われると、そんなことはまずないだろうと思う。次の瞬間かと考えても、それもないだろう。その次の瞬間かと考えても、それもないだ…

【思考】現実に関する感覚の一致

自分が見えているコップを相手も見えていると言えばそれが幻でないとわかる。 「さむいね」と言って「さむいね」と返ってくれば、自分の感じている寒さが風邪による悪寒などではないとわかる。つまり物質世界の中の気温の低下という同じ要因がそれぞれの感覚…

【俳句】2017年9月22日~2018年1月23日

一人セピア色の句だけを詠む 雪明るすぎてなにもすることがない 雪掻きの人ら健全なる雪よ 雪掻きの道を赤カーペットのように 失恋の中にいて息薄白き 命も愛もそっと消え行き冬の浜 村時雨みんな違っていて寂しい 一月の言葉は人を別つもの 初詣する人間や…

【徒然】雪の降らない土地から降る土地へ出てきた

関東へ越してきて二年近くのある冬の日。 降水確率90%で雪の予報。 これは翌日早起きしたら少し積もっているところを見れるかも。 などと思いながら近所のスーパーに行ったら、シャベル、じゃない、こっちではスコップと呼ぶんだ、雪掻きに使いそうなあれ…